W:こんにちは.初めまして
Oさん:こんにちは(緊張気味)
W:Oさん,この病院は初めてですか?
Oさん:5年ぐらい前に来たことがあるはずです.人間ドックだったかな?
W:あ〜〜,確かに胸のレントゲンとか頭のMRIが6年前の分がありますねえ.それで,今日はどんなことが気になって?
Oさん:この人たちがわすれ物が多いとか記憶が飛んでるとか言うんです...
W:この人たちっていうと?
Oさん:こっちが息子でこっちが娘です.
W:みなさんご一緒にお住まいですか?
Oさん:いえ,お父さんと二人です.
W:そういえば,旦那さんは?
Oさん:今日は家で留守番です.
W:旦那さんからは,何か言われるんですか?
Oさん:あの人はなんも言わん
ご家族:父は,ぼーっとしていることが増えたと言っていました.
Oさん:そんなことお父さんから言われたことないわあ
W:なるほど.そういえば今日は先に物覚えとか判断力の検査を先にしてもらったんだけど,どうでした?
Oさん:初めてだったから緊張しました.日付とか覚えておいてくださいとか,やっぱりボケの検査なんですよね.
W:確かにそうとも言えますが...でも今日は特に極端にもの忘れがひどいわけではないみたいですよ.30点満点の認知機能検査で28点でしたので,よかったですよ.頭のMRIでは,脳の萎縮は目立ちませんが,いわゆる「かくれ脳梗塞」がありますねえ.
Oさん:いつ起こったんでしょうか?
W:断定はできないけど,多分1年以上経ってるかもしれませんねえ.
ご家族:私たちも特に気がつきませんでした.
W:ちなみに旦那さんが言われる「ぼーっとする」というのはいつ頃からですか?
ご家族:確か父は1年半ほど前からだと言っていました.
W:お二人が「もの忘れ」が気になり始めたのはいつ頃からですか?
ご家族:特に気になり始めたのは,ここ半年ほどです.
Oさん:そうかなあ
W:突然ですけど,最近気になるニュースはありますか?
Oさん:そりゃ先生,東京オリンピック でしょう.
ご家族:お父さん,オリンピック 一緒に見ててもぼーっとして,次の日には忘れてることがあるって言ってたよ.
Oさん:そうかなあ
W:お二人は,その「ぼーっとする」を実際に見られたことがありますか?
ご家族:ないですけど,一回だけ電話をしていて20秒ぐらい急に会話が止まったことがありました.
Oさん:なるほど
W:「ぼーっとする」とき,何か他に気になることはないですかねえ.
ご家族:わかりません.父は家にいるはずなので,電話してみましょうか?
W: ぜひぜひ
・・・・・・・
ご家族:父に尋ねたら,難しそうな顔をして口を尖らせたりすることがあるようです.
Oさん:そうかなあ
W:なるほど,なるほど....
いきなりですが,この方の診断は「高齢者てんかん」でした.
「てんかん」は,子供や若い人の病気と思われがちですが,実は加齢自体や加齢に伴う脳の病気(例えば脳梗塞や認知症など)に伴って増えてくる病気です.
Oさんのように,「もの忘れ」「記憶が飛ぶ」「ぼーっとする」と言った表現となるてんかん発作のタイプも多いです.その時には,顔をしかめたり,口を鳴らしたり,体を揺らしたり,手をもぞもぞしたり,何かしらいつもはみられない変化を伴うこともしばしばです.
Oさんは,「てんかんなんて信じられない!」という感じでしたが,脳波をとったりして病気のことを理解していただきました.幸い「抗てんかん薬」がとてもよく効いて,「ぼーっとする」のも気にならなくなり,生活を楽しんでおられます.
脳神経内科部長・認知症疾患医療センター長 涌谷陽介