アルツハイマー病の新しい治療

最近,新聞,テレビ,インターネットなどのニュースで,「アルツハイマー病の新しい治療」の話題をご覧になった方も多いと思いますので,少し解説したいと思います.
まず,認知症の原因にはたくさんの疾患がありますが,アルツハイマー病はその代表的な疾患です.その定義としては,アミロイドベータ蛋白(Aβ)が脳内に蓄積していることが必須条件になります.そのため「アルツハイマー病の新しい治療」を受けるためには,Aβが脳内に蓄積していることを医学的に証明しなければなりません.
Aβの蓄積を証明する方法は,これまで研究室や薬剤の臨床治験(薬剤の効果の有無を調べるための試験)でしか用いられてきませんでした.代表的な方法には,アミロイドPET(Positron Emission Tomography: 陽電子放出断層撮影)や髄液中Aβ測定があります.アミロイドPETにより,Aβ沈着の程度や広がりが画像化できます.髄液中Aβを測定すれば,Aβが蓄積しているかや,別の異常蓄積蛋白であるタウ蛋白の測定も可能です.今まではそうではなかったのですが,もう少ししたら保険適応にはなると思います.ただ,アミロイドPETがある病院は地域にはごく少数しかありません.髄液検査も,血液検査のように簡単にできる検査ではありません(脳神経内科や脳神経外科等の専門医が行う必要がある).
「アルツハイマー病の新しい治療」は,希望の星ではありますが,まだまだどなたでも気軽に受けていただける治療ではないようです.

その他の課題を挙げておきます.
・頭部MRIで,脳出血の傷跡があると使用できないことが多い.
・認知機能検査や生活機能評価で,軽度認知障害(MCI)から初期認知症の方が投与対象となる.
さらに進行してしまった場合は,投与対象にならない(効果がないことが予想されるため).
・点滴静注をするために2週間ごとに通院が必要.
・進行抑制を目的とした薬剤であるため,目に見えて「良くなる」効果は少ない可能性がある.
・薬価が高価であることが予想されている.
・一過性であることが多いものの,副反応として脳の浮腫や炎症が生じることがある.
・副反応の有無を調べるため,投与を開始してから半年〜1年は,約3ヶ月毎に頭部MRIを撮影する
必要がある(今後変わり得る).
・副反応が起きやすい体質に関わる遺伝子がわかっているが,日本では保険診療で調べることがで
きない.

など、課題ばかり挙げましたが,画期的な治療ではあるので,詳しいことは医師にお尋ねください.

認知症疾患医療センター センター長 涌谷