先生と93歳女性Aさんとの診察室での会話

私:Aさんおかげんはいかがですか?顔色もいいですね。食欲もいいですか?
Aさん:あんまり欲しくないけど三度三度食べとるよ
私:でもまんじゅうは美味しいでしょ
Aさん:そりゃな
私:そういえば出るものも出ていますかねえ
Aさん:そりゃ出んかったらえらいことじゃ
私:それはよかった。ありゃ、このあいだ誕生日ですね。93ですか?すごいなあ、どうやったら93まで生きられるんかなあ。ぼくは男だし全然自信ない
Aさん:先生は長生きするよ
私:でも医者の不養生っていうしなあ
Aさん:先生は全然太っとらんが
私:長生きの秘訣はなんじゃろ
Aさん:普通にしとるだけじゃからわからんよ
私:医者は普通とはいえんからなあ。Aさんやっぱり教えてよ
Aさん:そんなこと言われてもわからんが。先生、私は種松山に行きたいと思っとるんよ
私:桜が咲き始めてきっといい感じだもんねえ。ぼくも週末の朝はやく、車が混まんうちに行ってみようと思っとるんよ。まだ倉敷に来てから行ったことないしね
Aさん:別に花見じゃなくて、種松山から登る煙になりたいんよ
私:まあ確かに高いところから見た方が桜も綺麗だろうなあ
Aさん:もっともっと上の方のことじゃ
私:もっと上の方かあ...言われてみれば土の中からは桜は見れんもんなあ
Aさん:先生ようわかっとるが。もうそんな気持ちじゃ
私:でも食べるもん食べて、出るもん出て、寝るときに寝て、息切れも目立たんし、足腰もぼちぼち。絶対桜を見に行った方がいいよ.
Aさん:そうじゃなあ。最後の桜になるかもしれんし
私:それはそうと診察せんとね......心臓はいい音で、もうちょっと頑張るって言っとるよ
Aさん:また先生そんなこと言って。年寄りの気持ちがわからんのじゃなあ
私:ごめんなあ。その年になったことがないし、なれる気もせんからなあ
Aさん:先生は長生きするって
私:頑張ります
Aさん:奥さんによくしてあげんといけんよ
私:頑張ります
Aさん:ありがとう言わんといけんよ
私:Aさんは人に言ってるの?
Aさん:そりゃ、この世でしか言えんことじゃろ
私:全くその通りじゃなあ
Aさん:仕事あんまり頑張りすぎたらいけんよ
私:そうします
Aさん:ほんじゃ薬出しといて。ちょっとボケとるけど、また先生のところに来るわ
私:また会いましょう

一期一会。生き死にの話、感謝の気持ちの話。

 

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