陰部痛の鍼灸治験例

カテゴリー: ヘイセイ鍼灸治療院 | 投稿日: | 投稿者:

暫く前に、陰部痛の症状を訴える70代の女性患者が当鍼灸院に来られました。病歴を尋ねてみたら、次のように教えてくれました。

「この数年に、孫のことで常に心配ごとがあり、来院時の約半年前から、陰部の痛みを感じるようになりました。婦人科を受診し、諸検査を受けましたが、特に異常は見られなかったので、精神的な問題だと判断されて、精神安定剤を処方され、服薬後、陰部痛の症状は改善したので、薬をやめました。

薬を止めてから1か月後に症状は再発して、再び同じ薬をもらって治療しましたが、今度は全く効果がありませんでした。その後、泌尿器科を受診し、検査した結果、やはり異常は見られませんでした。本人は痛みがあると強く訴えたので、先生はしぶしぶ抗生剤を処方しましたが、結局、本人はこの薬を殆ど飲みませんでした。その後、ペインクリニックに受診するようになりました。そこからリリカ(神経障害性疼痛、全般性不安障害)、サインバルタ(うつ病、うつ状態に加え、糖尿病性神経障害、線維筋痛症、慢性腰痛症に伴う疼痛)などの薬を処方されて、服用していますが、効果が全く感じません。持病として高血圧・高脂血症があり、服薬もしています。また、胃の調子は良くなく、もたれたり、痛くなったりします。そのため、さらに多くの薬を服用しています。調剤担当の薬剤師は、長期にたくさんの薬を服用していることを見て薬の副作用を心配し、鍼灸治療を薦めたので、痛み止めの薬を止めて、鍼灸院に来ました。」

舌診から見たら、舌質は暗瘀、脈は滞渋。腹診は臍の周辺と上腹部の中心に硬く、抵抗が強い。体質は気滞血瘀、肝脾不和だと判断しました。長期の心配ごとと精神的なストレスで、気機の乱れが起こします。肝臓は気機の疏泄を主っているため、気機の乱れは、肝気鬱滞を起こし、さらに気の滞りによって、血の循環障害を起こし、瘀血を形成していまいます。肝の経絡は陰部をめぐりますから、肝経の気滞血瘀により、陰部に症状が現れることも不思議ではありません。また、五行の生剋関係から、肝経の気滞により、脾胃の機能障害を起こしやすいので、胃の症状が現れても、理の中のことだと考えられます。

これに対して、理気活血、疏肝健脾の治療方針を定め、肝経の太衝(たいしょう)、蠡溝(れいこう)、中都(ちゅうと)、脾経の三陰交、商丘(しょうきゅう)、胃経の足三里、大腸経の合谷、任脈の曲骨、背部の肝兪、次髎などツボを取って治療を行いました。

一回目治療した後、3日間陰部の痛みが出なかったが、その後、また痛みが出ました。一週間後に2回目治療した後、さらに一周間後の3回目に治療するまで、痛みは殆ど出なかった。そして3回目の治療は、胃腸症状を中心にして行いました。それで、胃の症状が改善されたが、陰部の痛みはまた現れました。4回目から最初の治療方法に戻り、治療を継続して行くと、陰部の痛みは殆ど感じなくなりました。その後、症状の反復がありましたが、程度はかなり軽減されているそうです。

ヘイセイ鍼灸治療院  甄 立学