日別アーカイブ: 2021年12月16日(木曜日)

糖尿病治療と「ケトアシドーシス」について

カテゴリー: 薬剤部 | 投稿日: | 投稿者:

日本糖尿病学会から、SGLT2阻害薬について、「周術期におけるストレスや絶食により、ケトアシドーシスが惹起される危険性があるため、手術が予定されている場合には術前3日前から休薬し、食事が十分摂取できるようになってから再開する」と2020年12月に提言されてから1年が経過しました。「ケトアシドーシス」というのは、どのような状態のことでしょうか。

まず、「糖尿病性ケトアシドーシス」は、糖尿病の高血糖性の急性代謝失調で、インスリンが不足した場合や、コルチゾールやアドレナリンなどのインスリン拮抗ホルモンが増えてインスリンの作用が弱まった場合などに発症します。インスリンの作用が弱まると血液中のブドウ糖を利用できなくなり、代わりに脂肪酸を分解してエネルギーをつくり出す仕組みが身体に備わっています。これにより、脂肪酸の分解副産物である「アセト酢酸」、「β-ヒドロキシ酪酸」などのケトン体が血液中に増え、ケトーシスという状態になります。ケトン体は酸なので血液が酸性に傾き、「ケトアシドーシス」と呼ばれる状態を引き起こします。1型糖尿病ではインスリンがもともと体内で不足しているので「ケトアシドーシス」の発症リスクが高く、「糖尿病ケトアシドーシス」は1型糖尿病に多くみられる代謝異常です。

一方、「SGLT2阻害薬」は、2型糖尿病の治療にも使用される薬です。尿中に一度排泄されたブドウ糖の再吸収を抑制するので、血液中のブドウ糖を尿と一緒に体外に出して血糖値を下げる作用があります。食事を摂れない状態では、尿中へのブドウ糖排泄が促進されるために体内のブドウ糖が不足し、代替エネルギーを作り出すために脂質代謝が亢進するので「ケトアシドーシス」が引き起こされます。「SGLT2阻害薬」服用中は、薬の作用により血糖値が高くならないので、「正常血糖ケトアシドーシス」が起こり、気づくのが遅れることがあります。この場合は、治療初期から十分なブドウ糖とインスリンの補充が必要です。

「ケトアシドーシス」の主な臨床症状は、悪心、嘔吐、食欲減退、過度の口渇、倦怠感などです。このような初期症状を知っておき、異常があれば、できるだけ早く医療機関を受診しましょう。日常生活においては、「シックデイ」と呼ばれる、発熱や嘔吐下痢を発症した状態のときには注意が必要です。また、過度の糖質制限ダイエットにも注意が必要です。

ただし、「SGLT2阻害薬」が特別に危ない薬ということではありません。1型糖尿病にも使用できる、体重を減少させる、心不全による死亡率を低下させる、慢性腎不全の進行を遅らせる、など、新しい効果も解明されて多くの患者さんに恩恵があります。もともと糖尿病はブドウ糖の代謝異常ですから、食事や運動といった生活習慣とは密接な関係があり、すべての薬で特徴や注意が異なります。まずは、自分の薬を理解すること、そして、正しい生活習慣を送り、特に冬場は感染症などによる体調変化に注意することで、危険な状態を回避できます。私たちと一緒に、糖尿病治療に取り組みましょう。

薬剤師 いっちー