日別アーカイブ: 2020年12月12日(土曜日)

貧血とHIF-PH(低酸素誘導因子プロリン水酸化酵素)阻害薬

カテゴリー: 薬剤部 | 投稿日: | 投稿者:

貧血は、血液成分である赤血球や、ヘモグロビンが低下する病気です。赤血球は全身に酸素を運ぶ役割があるので、赤血球やヘモグロビン(赤色素)がうまく機能しないと、酸素を運ぶことができなくなり貧血の症状が現れます。貧血の約9割は鉄不足による鉄欠乏性貧血ですが、貧血の原因は他にもあり、対処方法が異なります。病院でもらう採血検査結果に、RBC(赤血球)、Hb(ヘモグロビン)、MCV(平均赤血球容積)、MCH(平均赤血球血色素量)などの数値が記載されていると思います。これらの数値からも、貧血の原因がおおまかに推測されます。
(1) MCVが低値、MCHが低値: 鉄欠乏、慢性炎症、鉄芽球性によるもの
(2) MCVが正常、MCHが正常: 出血、再生不良性貧血、腎性貧血などによるもの
(3) MCVが高値、MCHが正常~高値: ビタミン欠乏、葉酸欠乏、過剰飲酒によるもの

上記(2)の貧血のうち、腎臓機能障害がある場合は、腎性貧血が疑われます。腎性貧血とは、腎臓で作られるエリスロポエチンという物質の産生が減少して起こる貧血です。エリスロポエチンは造血ホルモンとも言われ、エリスロポエチンが減少すると赤血球産生が減少して貧血が起こります。腎臓機能障害の原因には、慢性腎不全、糖尿病性腎症、高血圧、慢性糸球体腎炎などがあります。

腎性貧血の治療には、「ダルベポエチン(ネスプ)」「ミルセラ」のような、赤血球造血刺激因子製剤(ESA製剤)の皮下注射が使用されています。このESA製剤は、エリスロポエチンが作用して、赤血球産生を促しますが、注射薬ということで、身体的負担が大きいなどの問題もあります。

近年、HIF-PH(低酸素誘導因子プロリン水酸化酵素)阻害薬という新しい飲み薬が開発されました。HIF-PHを阻害して転写因子HIF-αの分解を抑え、HIF経路を活性化させることで、生体が低酸素状態に曝露されたときと同様に赤血球造血が刺激されるというメカニズムだそうです。なんだか難しい話ですが、この、「身体が低酸素状態になると、腎臓がエリスロポエチンというホルモンを分泌して赤血球を増やし、酸素の運搬能力を上げようとする」という現象の原因分子として発見されたHIFについては、米ジョンズ・ホプキンズ大学のセメンザ(Gregg L. Semenza)教授,英オックスフォード大学のラトクリフ(Sir Peter J. Ratcliffe)教授,米ハーバード大学のケーリン(William G. Kaelin)教授らに、「細胞が周囲の酸素レベルを感知し,それに応答する仕組み」を解明したことで、2019年にノーベル生理学・医学賞が送られています。

HIF-PH阻害薬は新しい薬なので、適正使用のために、細かい制限があります。腎性貧血の治療中で、注射薬で治療をされていて負担を感じられている方は、専門の先生に相談してみてください。

いっちー