痰飲(たんいん)による不安神経症の鍼灸治療

カテゴリー: ヘイセイ鍼灸治療院 | 投稿日: | 投稿者:

40代の女性、めまい、動悸、不安、睡眠が浅い、パニック発作、肩こり、頭痛などの症状でヘイセイ鍼灸治療院に来られた。
病歴を聞いてみると、家族が転勤族で、30代の前半に子供が生まれてから、不安定な生活環境の中で子育てをしていたため、ストレスが強く感じ、次第に気分不良、めまい、手足の痺れ、動悸、不安、肩こり、頭痛、人込みの中にいるとパニック発作、電車や飛行機に乗ると、気分不良など、多岐の症状が現れました。病院では「不安神経症」や「うつ」などとして抗うつ治療を受けまして、一時症状が改善されましたが、薬を減らすと、症状が再発しました。抗うつ剤をやめるために、鍼灸院に来られました。
体質判断の情報としては、痩せ型、顔色が白くて艶はない、舌が青くて薄い白苔、腹筋がやや緊張で胃のあたりに押さえると「振水音」(水を振動させる時の音)がある、四肢末端が冷えている。飲食習慣では、冷たい飲み物をよく飲む。
以上の状況から、この患者さんの症状は胃に痰飲の停滞によるものだと判断しました。痰飲は水分の代謝障害による産物で、「水毒」とも言われます。このような患者さんは病院での検査では異常が見られず、多岐に症状が見られます。
漢方の古典『傷寒論雑病論』に収載される苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)は、痰飲(水毒)による諸症状を治療する代表的な処方です。この処方の適応症状には、めまい、ふらつき動悸、神経質、ノイローゼ、息切れ、頭痛などが見られます。これらの症状は、この患者さんの症状とよく似ています。
胃中痰飲を治療するため、胃の陽気を強くしなければなりません。そのために、まず、患者さんに冷たい飲食を控えるように説明しました。さらに腹部の水分、陰交(いんこう)、天枢(てんすう)、上肢の曲池(きょくち)、下廉(げれん)、内関(ないかん)、合谷(ごうこく)、下肢の足三里(あしさんり)、陰陵泉(いんりょうせん)、三陰交(さんいんこう)、公孫(こうそん)などのツボに鍼灸を実施しました。
治療を開始から3か月後に、諸症状は殆ど改善され、抗うつ剤もほぼやめました。1年後に電車での長い旅でもできるようになりました。
精神、神経的な症状は胃腸の水毒によって起こる時もあります。鍼灸治療は、抗うつ剤のような副作用はありませんので、長く患っている患者さんは、選択肢の一つとして考えても良いかと思います。

ヘイセイ鍼灸治療院 甄立学