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腎性貧血

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「NHKスペシャル 人体-神秘の巨大ネットワーク第1集“腎臓“が寿命を決める」が放映されました。

腎臓の持つ様々な機能についてCGを用いて作られていました。赤血球産生にかかわるエポ(エリスロポエチン)、血圧調節にかかわるレニン(傍糸球体細胞が分泌)、電解質調節―特にリン濃度調節などについて語られています。腎臓は全身臓器のネットワークの要であるので、腎臓機能が寿命を決め、腎臓を守ることで生命を救うというメッセージでした。腎機能指標の一つに糸球体濾過量GFRがあります。通常は血液中のクレアチニン濃度から計算するeGFRを用います。このeGFRが60mL/分未満の状態を慢性腎臓病として捉え注意を喚起することが重要とされています。年齢と共にGFRは低下することが多く、当院を受診される慢性腎臓病の方も多くおられます。そして腎性貧血の方も次第に多く経験するようになりました。

腎性貧血は糸球体濾過量GFR60mL/分 未満でその頻度が有意に増加すると言われています。鉄剤の補給では貧血が改善しません。腎性貧血の原因は多くありますが代表的なものがエリスロポエチン不足です。

慢性腎不全になると腎臓の尿細管間質細胞(京都大学腎臓内科学教室の研究によれば尿細管の間質を形成する神経堤由来の線維芽細胞)で産生されるエリスロポエチンが十分に分泌されなくなり造血障害を起こします。(赤芽球系前駆細胞の増殖・分化が抑制されて前赤芽球が増加しなくなります)

エリスロポエチンの血漿中濃度は貧血の進行(ヘマトクリット減少、ヘモグロビン減少)に伴い上昇します。貧血がない時は4.2(7.4)~23.7(29.8)mIU/mLであり殆どは10mIU/mL以下ですが、ヘマトクリット30%の貧血では100mIU/mL程度に上昇すると言われています。貧血にも拘らずエリスロポエチン濃度が正常範囲の時には、エリスロポエチンの相対的不足があると考えられます。但し、腎性貧血の原因はエリスロポエチンの不足以外に、赤血球寿命の短縮・骨髄赤血球造血の抑制・鉄代謝障害・造血に必要な栄養素(亜鉛、銅、ビタミンB12 葉酸など)の不足などがありますので、それらの除外も必要です。

エリスロポエチン不足はエリスロポエチン製剤の皮下注射で治療します。最近は血中半減期の長い製剤を使用することが多く、2週間ないし1ヶ月に1回の注射で維持できることが多いです。

改善するまでの投与量や改善してからの維持量は同等の腎機能低下でも個人差があります。おそらくエリスロポエチン不足以外の要因に左右されると思われます。また、治療による貧血改善と共に栄養素不足が生じてくることもありそれらの補充が必要となることもあります。

なんと言っても腎機能を低下させないような生活、注意が肝腎です。禁煙や高血圧・糖尿病の予防・適切なコントロールが重要です。また薬剤による腎機能低下も多くみられます。薬局で購入できる鎮痛薬でGFRが低下することもあります。必要な治療薬であっても腎機能の低下に応じて減薬や中止を考慮しなければなりません。冒頭のNHKスペシャルでも、腎疾患以外の治療でも腎機能に目を配り、腎障害が高度なのでそれまでの治療薬剤を一時中断して生命を救った事例の紹介がありました。

どのような治療を行う時でも腎機能に注意して薬剤の量や種類を考慮しなければと考えています。

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新事実 「炭水化物多いと死亡率高くなる」 

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1ランセット誌オンライン版2017/8/29に以下の研究結果が掲載されました。
カナダ・マックマスター大学Mahshid Dehghan氏調査
18か国 13万5千人以上 5.3年~9.3年(中央値7.4年) 追跡調査
結論
炭水化物摂取量が多いほど全死亡リスクが上昇する
脂質は総脂質および脂質種類別にみても摂取量が多いほど全死亡リスクは低下する
総脂質・脂質種類別の摂取量は、心血管疾患、心筋梗塞、心血管疾患死と関連しない
飽和脂質摂取量が多いほど脳卒中のリスクが少なかった

これを踏まえて正しい栄養指導を行うことが重要です。
江部医師の指摘する「栄養士の7つの誤解」を要約します。
1) 脳はブドウ糖しか使えない 糖質不足で体調不良になる
正しくは→脳はケトン体も使う  糖質制限時の体調不良はカロリー不足が原因

2) 脂肪は悪玉であり避けるべきである。脂質の摂りすぎで肥満になる。
正しくは→太りすぎの原因は糖質摂りすぎによる余剰血糖が中性脂肪に変換するから

3) 卵は1日1個までにし、多く食べてはいけない。
正しくは→コレステロール摂取制限は撤廃され1日に食べる卵の個数に制限はない

4) 糖質は人間にとって必須栄養素である。
正しくは→赤血球はブドウ糖のみをエネルギー源とするが、アミノ酸や乳酸などからブドウ糖を作り出すので糖質は必須ではない(一部の代謝障害で困難なことがある)

5) 糖質だけ減らしてもあまり意味がなく蛋白質や脂質でも血糖値が上がる。
正しくは→直接血糖値を上げるのは糖質のみ

6) 蛋白質を摂りすぎると腎臓に悪影響がある。
正しくは→腎機能正常者での蛋白質摂取上限なし。腎機能低下者でも低蛋白食で腎機能改善効果・悪化防止効果はない。

7) 日本の栄養学は科学的に正しい。
正しくは→古い常識を信じて疑わないので正しくない食事指導が続いている

以上 ブログ「ドクター江部の糖尿病徒然日記」とブログ「新しい創傷治療」 から抜粋しました。
栄養指導の問題点は、私も同感です。

平成南町クリニック  玉田

高アンモニア血症

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糖質制限食は高血糖を防ぐのみでなく様々なメリットがありますが、高蛋白食になる場合が多いので注意も必要です。肉などの高蛋白質食品を摂った後で、頭痛・嘔気・だるさや軽度の意識障害などの体調不良が繰り返し起こる時には、稀な疾患ですが尿素サイクル異常症も考えられます。蛋白質代謝産物であるアンモニアが尿素に変換されずに高アンモニア血症になっているかもしれないのです。先天的な酵素障害が原因ですが、成人になるまで症状が出ないこともあるようです。大多数の人にとっては、蛋白質を多く摂ることは望ましい状況であり、糖質の摂り過ぎで食後のだるさや頭痛が起こることが多いのですが、そうでない事もあると知っておきましょう。

高アンモニア血症の原因として最も多いのは肝臓障害ですが、非肝臓性として上述の尿素サイクル異常症の他に、ウレアーゼ産生菌による尿路感染症や薬剤の影響があります。各種てんかん・躁状態の治療や片頭痛の予防に使われるバルプロ酸ナトリウム(デパケンなど)では、約半数に無症候性の高アンモニア血症が起こっているとの指摘もあります。肝性脳症などを考えた時には測定するアンモニア濃度ですが、測定対象を広げた方が良さそうです。なお、アンモニア測定時には、アンモニア濃度に影響する食後や運動後を避けてアンモニア専用容器に採血し採血後すぐに上清を分離しなければなりません。

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食後の眠気について

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寝苦しい熱帯夜で睡眠不足になり易いこの頃です。それにしても食べた後にはよく眠くなりますね 特に昼食後に眠くなる人は多いのではないでしょうか。どうしてでしょうか
生化学(デブリン生化学 7版p900)の本には次のように説明してあるそうです
(ブログ ドクター江部の糖尿病徒然日記2017/7/14)
糖質(炭水化物)摂取で血糖値上昇するのでインスリンが分泌(糖質量多ければインスリンもより多量分泌)され、インスリンの作用でアミノ酸が骨格筋へ取り込まれ蛋白質合成が促進され血中アミノ酸濃度が低下する。しかし、トリプトファン(アミノ酸の一種)だけは骨格筋へ取り込まれないので血液中のトリプトファン濃度が相対的に上昇する。その後次のような連鎖で眠気が出てくる。血液脳関門を通過するトリプトファン増加→脳内トリプトファン量増加→セロトニン増加→メラトニン増加→眠気出現
食後だから眠くなるのではなく、糖質を摂ってインスリン分泌が増えるから眠くなる理屈です。
糖質制限食だと眠気が少なくなるので、あるタクシー会社では勤務中の運転手の食事を糖質制限食にして眠気による事故を予防しているそうです。職業ドライバーに限らず一般のドライバーでも運転前の食事は糖質制限食が望まれます。また、江部ドクターによれば、血糖値の変動が少ないと心理的に安定するので、安全運転につながります。
昼食後に眠くて仕方がない人は、昼食を糖質制限食にしてみましょう。

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亜鉛欠乏症の薬「ノベルジン」

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これまで亜鉛欠乏症(低亜鉛血症)に対する保険適応の薬はなく、亜鉛を含む胃潰瘍の薬を使わざるをえませんでした。本年3月に「ノベルジン」が低亜鉛血症の適応となりました。ノベルジンは、銅の排泄障害で起こる先天性銅過剰症のウィルソン病(肝レンズ核変性症)の治療薬としてのみ認められていました。

亜鉛Znが不足すると味覚障害・皮膚炎・脱毛・口内炎・性腺機能障害などがおこります。小球性~正球性貧血や亜鉛欠乏性溶血(赤血球膜が脆くなり、ランニング中の足底圧力や人工透析による機械的な溶血性貧血)が起こることがあります。

ノベルジンを低亜鉛血症に用いる場合には、食事等による亜鉛摂取で十分な効果が期待できない場合に使用することとなっています。服用量は体重30kg未満の小児では、開始量25mg1日1回、最大量25mg1日3回。それ以外の場合は、開始時25~50mg1日2回、最大量50mg3回です。

タンニンや多量の食物繊維を摂ると亜鉛・鉄・銅などの吸収が低下します。また、薬剤によっては亜鉛過剰排泄をおこすものがあり、多量の汗・尿による過剰排泄もあります。このような事がなければ、亜鉛欠乏を起こすことは稀とされていますが、亜鉛を含む食品の摂取が非常に少なければ亜鉛欠乏になるかもしれません。

亜鉛を多く含む食品は以下のものがあります。( )内は1回の通常摂取量での亜鉛mgです。

牡蠣60g(7.9mg)、豚レバー70g(4.8mg)、牛ロース70g(3.9mg)、鶏レバー70g(2.3mg)、ほたて貝60g(1.6mg)など。

逆に、サプリメントなどで亜鉛を過剰摂取すると、亜鉛と銅の吸収輸送体が共通なので銅の吸収が少なくなり銅欠乏が生じることがあります。銅が不足すると、正~大球性低色素性貧血や亜急性連合性脊髄変性症になりえます。これはビタミンB12欠乏と同じ症状・所見です。

亜鉛の1日必要量は、男性10mg・女性8mg(妊娠中10mg、授乳中11mg)なので摂り過ぎにも注意しましょう。亜鉛欠乏がない場合、1日40~45mg以上は摂り過ぎです。

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糖尿病性網膜症

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世界的な眼科外科医の深作秀春医師の著書「視力を失わない生き方」光文社新書(2016年12月20日初版)の253頁に、糖尿病性網膜症についてこう説明してあります。

糖尿病の人は網膜の微小血管が詰まり、破けて眼底出血します。出血による酸素不足を補うためや組織修復のために、血管新生因子が出て新生血管が生えてきますが、これがまた、もろくて破けやすいのです。そして、眼底出血や硝子体出血を繰り返し、さらに進行すると、出血での炎症反応から眼球内に線維組織の増殖が進み、最終的にはこの増殖膜の牽引で、網膜が破けたり剥がれたりして、網膜剥離で失明します。

本書には糖尿病性網膜症の予防や治療について詳しく述べてありますので、糖尿病の方は是非読まれることをお勧めします。

著者の深作秀春先生が、ブログ「ドクター江部の糖尿病徒然日記」に寄せられた文章を転載いたします。

【17/01/21 深作秀春    糖質制限への糖尿病学会の無理解 今日、1月21日での横浜パシフィコ開催の日本糖尿病学会で、「過度な糖質制限食で起こしたケトアシドーシス」なる表題の発表がありました。 演者はケトン体値が高いというだけで、とんでもない悪さで重体と結論つけているのです。アシドーシスの方の検査値は出ていません。   私は眼科外科医ですが、糖尿病性網膜症を多く診ることもあり、糖尿病学会の会員でもあります。 今までの経験から、糖尿病専門医による治療が開始すると、糖尿病性網膜症が悪化することが多くて困り果てていました。 この経験をもって、江部先生の糖質制限食を患者に進めることができるようになってから、非常に安定した糖尿病性網膜症の治療ができるようになっています。さらに、宗田先生のケトン体の安全性とエネルギーとしての有効性は、患者だけでなく、自分自身を被験者にして実感してきています。   このような状況ですのに、地元横浜で行われた糖尿病学会では相変わらず、極端な糖質制限はケトアシドーシスを起こすので危険だ、と決めつけているのです。しかも、ケトン体値が高い事がイコールでケトアシドーシスと言っているのです。つまり、医学の基本を捻じ曲げているのです。

高ケトン値はケトアシドーシスとは別物ですが、医学部時代に刷りこまれたケトン体悪玉説に何の疑問も持たないで、科学としての医学の面を無視しているのです。   糖質制限を勧める眼科医の立場ですが、最近はますます従来の糖尿病治療で悪化して、糖尿病性網膜症が末期となり、網膜剥離を合併する患者の来院が、日本中から増えました。手術には難渋しますが、網膜復位手術後の網膜の安定化には、糖質制限が非常に有効であることを実感しております。】 以上転載終わり。

HbA1c高値の糖尿病を従来の治療法(インスリンやSU剤で血糖値をコントロールする)で開始して、血糖値が急速に改善すると、網膜症が新たに発症することや、悪化することがあります。悪化必発と言われる眼科の先生もおられます。それ故、糖尿病性網膜症がある場合はHbA1cを1ヶ月0.5~1%ずつゆっくりと下げるべきと習いました。

しかし、インスリン必要量を減らす糖質制限で高血糖が改善すれば、HbA1cの降下が速くても基本的に網膜症は悪化しないのです。ケトーシスそのものは危険ではない事も含めて、過去の常識に捉われずに、事実を真実として見つめましょう。

平成南町クリニック  玉田

胎児のエネルギー源  どちらが「代わりの事実」?

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以前にも紹介しましたが、産婦人科医の宗田哲男医師の研究によれば、胎児のエネルギー源はブドウ糖ではなくケトン体です。胎盤には高濃度のケトン体が含まれていますが、ブドウ糖は胎盤にも臍帯血にも多くは含まれません。このケトン体は母体からの脂肪酸を原料として胎盤で作られています。胎児に必要な栄養素とするために母体には中性脂肪とコレステロールが増加しています。卵生動物の卵は蛋白質と脂肪でできていて、炭水化物(糖質)は殆ど含まれません。哺乳類の胎児も同じようにブドウ糖は殆ど必要としないのです。妊娠母体の血糖値が上昇しているのは、胎児がブドウ糖をより必要とするからではないのです。
宗田医師は次のような仮説を唱えています。(光文社新書 宗田哲男著 「ケトン体が人類を救う」 )
妊娠糖尿病は、妊娠母体が「糖質を拒否」している病態である。同時に「タンパク質と脂肪を要求」している。
(それなのに)これに気付かずに、妊婦が糖質過多の食生活を送るために、病気が発症してしまう。
そして、この仮説をもとに糖質制限食でインスリンを使用せずに、妊娠糖尿病・妊娠中の明らかな糖尿病・糖尿病合併妊娠の妊婦さんを治療し、健常な胎児を出産される方々を増やしておられます。
糖尿病学会のガイドラインでは糖質エネルギー比率60%が良いバランスとしていますが、これの根拠となる論文やエビデンスはなく、糖質過多の状況なのです。その食事でカロリー制限をしても妊娠糖尿病の妊婦さんは食後高血糖になります。ガイドライン通りのカロリー制限をすれば、胎児に必要なタンパク質と脂質を犠牲にしていることになります。(ドクター江部の糖尿病徒然日記2017年3月14日記載事項抜粋)
低糖質食にすると結果的に血中ケトン体が増加しケトーシスになりますが、これをインスリン不足時に生じるケトアシドーシスと同一視して「ケトーシスが危険」と考えてはいけないのです。胎児はまさにケトーシスの状態でスクスクと育っていくのです。また、新生児も脂肪含有量の多い母乳からケトン体を生成し脳の重要なエネルギー源にしています。(ヒューマン・ニュートリション第10版2004年) 小児も成人も脳はごく普通にケトン体を利用できるのです。(ドクター江部の糖尿病徒然日記2017年3月12日記載事項)
これまでの常識が「代わりの事実」のこともあります。「真の事実」は何かを問う姿勢を続けたいものです。
平成南町クリニック  玉田

尿の電解質から判ること

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血液(血清)中のナトリウムNa、カリウムK、カルシウムCa、マグネシウムMgなどの電解質異常がないかどうかは一般的検査として日常的に行います。異常値だった場合は、その是正が必要かどうか、原因は何かを考えて治療を行います。原因を追究することなくただ補正のみを行えばいいというものではありません。原因を区別する場合に役立つのが尿中の電解質です。また、高血圧治療の基本として食塩制限がありますが、1日に何グラムの食塩を摂取しているかを、尿のNa、クレアチニンCr、体重、年令から推定計算できます。

低Na血症の原因鑑別 
まず尿浸透圧で区別しますが、尿のNa、K、尿素窒素BUN、Ca、Crで概算できます。
次に、尿Na濃度で区別して行きます。(最終診断には別の項目が必要です)

高K血症・低K血症の原因鑑別
腎臓からのK排泄量を評価することによって原因を絞り込むことができます。
尿のK、Crと 血清K、Cr、血糖、BUN を調べて計算します。
治療がうまく出来ているかどうかの評価にも役立ちます。

高Ca血症・低Ca血症の鑑別
正確には蓄尿でのCa濃度が必要ですが、原因の区別に役立ちます。

自尿の採れない場合には、導尿が必要になりやや侵襲的検査になってしまいますが、電解質異常の原因を考えながら治療する方がより早く治せるはずです。特に意識障害や脱力発作、重篤な不整脈などの緊急事態に際しては尿の電解質も是非調べましょう。
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メッケル憩室

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本年1月9日(成人の日)、当院は倉敷市休日診療当番医でした。計29人の受診がありました。インフルエンザの疑いで18人にインフルエンザ゙迅速検査を行い16人がインフルエンザA陽性でした。(B陽性なし)。胃腸炎症状の方も複数おられました。他に、腹痛の訴えがあり診察にて胃腸炎ではなく腹膜炎が疑われる方が二人おられました。一人は虫垂炎疑いで消化器外科を紹介しましたが、虫垂炎を含む急性腹症はなく症状が軽快して帰宅されたとのことでした。

もう一人は高熱を伴い汎発性腹膜炎が疑われる方でした。当日の朝から右下腹部痛があり、自宅で様子を見ていたが嘔吐下痢はなく少量ずつ2回の排便もあったそうです。次第に腹部全体が痛くなり圧迫痛が出てきたので午後遅くに当院を受診されました。歩行時の腹痛増強はなくheel drop signは陰性でした。(つま先立ちをしてから踵をドンと着いた時に腹背部に痛みがあれば陽性) 腹部の緊張は強くなく柔らかく触れ腹膜炎を思わせない状況でした。しかし、腸の蠕動運動を示す腸音が殆ど聞こえず、tapping pain(指先で優しく叩いた時に感じる痛みで、あれば腹膜炎の疑いが強くなる)を腹部全体に認めました。また圧痛も腹部全体に認めました。来院時にも嘔気なく診察中も嘔吐・下痢はありませんでした。寒気は訴えておられませんでしたが38度の高熱であり、腹部全体の腹膜炎所見から汎発性腹膜炎で緊急対応が必要と考えられました。

腹部疾患の既往歴・手術歴なく原因が特定できない状況でしたので総合病院内科を紹介しましたが、すぐに外科転科となったとの連絡がありました。気になっておりましたが、緊急手術になったとの返事を1月11日に外科の先生から頂きました。メッケル憩室の穿孔による腹膜炎で、小腸部分切除を行い経過良好とのことで安心しました。

virus_fukutsuuメッケル憩室は、全人口の約2~4%の人に見られる最も頻度の多い消化管先天奇形です。胎生期に存在する卵黄嚢と中腸を結ぶ卵黄腸管が閉じずに残った場合にできる小腸(回腸)の憩室です。回盲部から50~100cm口側にあり症状なく経過することが多いのですが、時に腸閉塞、憩室炎、穿孔を起こして急性腹症として開腹手術になります。また出血・腹痛で慢性経過をたどる場合もあるようです。合併症は、小児では出血が、成人(50~60歳台に多い)では腸閉塞が多く男性に多い傾向があるようです。メッケル憩室自体を開腹手術なしで確定診断することは困難のようですが、詳細な画像検査を行い注意深く観察することで診断できるかもしれないとあります。合併症を予防するために無症状時に切除することは有意義ではないようです。

今の季節は、高熱患者さんの多くはインフルエンザ感染が疑われますが、インフルエンザ迅速検査が陰性であればもちろん陽性であっても、他の緊急性疾患を見逃さないような診察が必要と実感しています。

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帆船ロンベルグ号をいかに操って長江を渡るか

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20161220

謎解きのようなタイトルですが医学徴候の私なりの覚え方です。言葉を、場所を含む画像イメージとして憶えるのは記憶力が低下してきた場合にとても有効です。
今回は「ヘルニア」についてです。椎間板ヘルニア、食道裂孔ヘルニア、鼠径ヘルニアなどがありますが、比較的まれな「閉鎖孔ヘルニア」についてお話します。
骨盤腔の下方で坐骨・恥骨・腸骨に囲まれる三角形の空隙を閉鎖孔と言いますが、その中に閉鎖神経と閉鎖動脈が通る閉鎖管があります。閉鎖孔は骨盤腹膜と内・外閉鎖筋とで閉じられているのですが、そこが何らかの理由で緩むと閉鎖管の中に小腸(回腸)が入り込み、閉鎖孔ヘルニアとなります。(大網、卵巣、卵管、子宮などのこともあります) ヘルニア内容物によって閉鎖神経が圧迫されると、閉鎖神経知覚枝の分布する大腿内側、膝、股関節部に痛みや知覚異常をおこすのです。小腸が入り込むと、その程度が軽ければ下腹部の違和感や食欲不振を、通過障害を起こせば腸閉塞を起こして強い腹痛や嘔吐を生じます。
非常に頻度は低いとされていますが、過去4ヶ月で閉鎖孔ヘルニアの方を二人経験しました。
○93歳 標準体重の女性  既往 腰椎すべり症による脊柱管狭窄症
1年前から、腹部不快感や右大腿部の引きつけ感・しびれ・痛みがあるもしばらくすると自然に軽快することを繰り返していた。長時間の座位や歩行時に出現することが多かった。当院も受診されているが既往症による痛みを考えていた。
前日の夜に右大腿内側部が非常に痛く歩行困難となり救急外来受診。CT検査にて右大腿に著変なく帰宅。
翌日、痛みはやや軽減するも続くため当院受診。特徴的な痛みから右閉鎖孔ヘルニアを疑い前日のCTを見直したところ、右の外閉鎖筋の間に腸管構造を認め右閉鎖孔ヘルニアと診断した。
診断後の経過
C病院外科を紹介受診し1か月後に予定手術となったが、その後鎮痛薬を変更して痛みのコントロールが容易となり、腹部症状もなく経過したので本人希望で手術延期となった。
診断確定2ヶ月半後の深夜に右大腿部激痛あり救急外来受診。翌日未明午前1時45分にCT撮影し鼠径ヘルニア疑いで帰宅となる。同日午前9時30分当院受診。CT所見では右閉鎖孔に腸管が陥入し小腸浮腫所見あり、C病院外科に緊急手術を依頼した。翌日午前1時に緊急手術となった。(ヘルニア内容を還納し閉鎖孔をパッチで閉鎖) 術後は順調に経過し右大腿・下腿の痛みなく生活されている。
○86歳 BMI16.7の痩せた女性 心臓弁膜症あり
1年11ヵ月前 右下腹部から腰部にかけて激痛あり、翌日も鈍痛続き救急外来受診し腹部CT撮影。原因不明のまま帰宅。(今見直すと、両側の恥骨筋と内閉鎖筋の間隙が大きく開いており、大網が入り込んでいると思われる)
1年6か月前 10日前から右下腹部痛が持続し救急外来受診の朝に嘔吐あり。救急外来到着時には症状は軽減していた。CT所見は前回と同じで経過観察となっている。
診断日 起床して起座になった時に右臀部から右大腿上部にかけて強い痛みあり。起立すると痛みがさらに増強したので当院受診。数日前から食欲不振あり。力んでも排便なかったが緩下剤や浣腸を拒否されていた。
痛みの原因として右閉鎖孔ヘルニアを考えたが、食欲不振の原因精査を兼ねて全身CT検査を施行。
右閉鎖孔(恥骨筋と内閉鎖筋の間)に腸管構造と思われる索状物を認め、右閉鎖孔ヘルニアと診断した。腸管の変化を認めないので、腸閉塞を起こしうる危険性について説明し、緩下剤服用や浣腸施行して腹圧をかけないように指導した。その後は力まずに排便できるようになり、右大腿部痛は消失している。
お二人の経験から、閉鎖孔ヘルニアの症状は長時間の坐位や立位・歩行後、腹圧の高まる状況で出現しやすくなると考えています。ヘルニア内容は自然に元に戻ることもありますが、根治には外科的治療が必要です。日常生活に困る場合は待機的手術、イレウスを発症した場合には緊急手術が必要です。
最初の謎解きはこういうことです。Howいかに(操るか)ship(帆)船―Rombergロンベルグ(号) sign 徴候(長江)→Howship-Romberg sign =ハウシップーロンベルグ徴候。膝から大腿内側や股関節部に痛みがあり、大腿を後方へ伸展させたり、外側に拡げたり内旋(下肢を伸ばして足先を内向きに回す)したりすると痛みが増強する状態で、「閉鎖孔ヘルニア」の診断根拠となる徴候です。閉鎖孔ヘルニアによる下肢痛を坐骨神経痛などの整形外科的疾患と見誤ることもあるので注意が必要です。痩せた高齢の女性に多いので、そのような方の下肢痛(特に大腿内側部痛)や腹部症状・イレウス症状をみた場合は、“帆船ロンベルグ号”を想い浮かべる必要があります。

今年の平成南町クリニック号の操舵はどうだったでしょうか。上手に操れば帆船は風上へ進むことができます。平成南町クリニック号も風上へ進みたいものです。(写真はローズガーデン倉敷のイルミネーションです)
平成南町クリニック  玉田