失神について

気を失ったとクリニックを受診される方が時々あります。意識障害の場合は、すぐに病院へ紹介しますが、失神と考えられる時は、ゆっくり状況をお聞きして対策を考えます。
失神とは、突然発症して、短時間(多くは30秒以内、長くても数分以内)に自然に軽快してほぼ完全に元の状態に戻る、一過性の意識消失のことを言います。原因として最も多いのは、「神経調節性(迷走神経反射)失神」で、予後(発症後の生存率)は良好で、失神経験のない人と同じと言われています。2番目に多いのは、心原性(心停止・心室細動やその他の不整脈など)失神で、予後が不良かもしれないので、最も注意すべき失神です。3番目には、起立性低血圧による失神で、予後は上記2者の中間とされています。
診断(鑑別)は、まず「失神でないもの」を除外します。てんかん発作・ナルコレプシー・クモ膜下出血・一過性脳虚血発作などです。これらが考えにくい時は、検査よりも問診が重要です。
①前駆症状(ほてり・発汗・悪心・腹痛など)があったかどうか。しかし、前駆症状はなかったとの返答でも、失神による逆行性健忘で忘れてしまっていることもあります。
②失神の直前の状態(何をしている時に意識がなくなったか)立っていた・座って休んでいた・動いていた・横になって休んでいた など。
③特定の状況があったかどうか(神経調整性失神に多い)
急な強い痛み・医療行為(注射・切開など)・長時間立っていた→迷走神経反射が想定されます。
咳をした途端・排尿排便時などに失神→状況失神が考えられます。
頸動脈を圧迫する状況(髭剃り中・ネクタイを締めたなど)→頸動脈洞失神を考えます。
④どの位の間、意識を失っていたか。本人には判らないことも多いので、目撃者の証言が必要です。
⑤意識がすぐ戻ったか・しばらく(数分~数十分)疲労感・悪心・傾民傾向などが続いたか
⑥その他の情報:過去に同じような状況で失神を起こしたことがあるかどうか、どんな薬を服用しているか、家族歴があるかどうか(同じような失神を起こした人は?・心疾患の人は?・突然死された方は?)、心電図以上を指摘されたことがあるか など。原因不明の失神が最も多いとされますが、当初の問診で診断できなければ迷宮入りとも言われます。
検査を行うとすれば、その順番が大切です。
①心電図:最も予後不良な「心原性失神」をまず除外したいので、原則どんな場合でも行います。
②失神と意識障害の区別が困難な時には、血糖値測定・電解質検査・頭部CT 頭部MRI、などの血液画像検査
③起立障害テスト(姿勢による血圧・脈拍の変化をみます。)
失神の原因評価やその後の対策を考える上で大事なのは、「低血糖でない(血液検査で異常がない)・頭部画像検査で異常がない」ので「心配ない」と判断してしまわないことです。
(「極論で語る循環器内科 第2版 香坂 俊 編著 丸善出版」を参考にしました。)

平成南町クリニック 医師 玉田