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低血糖

syokuji_kasyokusyou定期血液検査で血糖値が59mg/dLだったので、主治医の先生から「もっとしっかり食べるように」と説明を受け、しっかり食べたら下痢をしてしまった患者さんがおられました。
この方は、本当はどうすれば良かったのでしょうか。
まず血糖値が59mg/dLの低血糖であった理由を考えなくてはいけません。低血糖になる理由は、
①インスリン誘発性
②糖新生障害
③インスリン拮抗ホルモン低下
④敗血症
⑤絶食・過度のダイエットあるいは厳格な糖質制限食を続けている に分けて考えます。

この方は、臨床的に④の敗血症ではなく、③の原因になるような下垂体機能低下、副腎機能低下、甲状腺機能低下はありません。カテコールアミンやグルカゴンの分泌を抑制するβブロッカーは服用されていませんでした。 また②の糖新生を障害するような肝硬変、糖原病ではなくアルコールを飲んではおられません。そうすると原因は⑤か①となります。採血をしたのは普通に朝食を摂ってから2時間後で特に糖質制限食にしていた訳ではありません。そこで⑤の原因は考えにくいです。

原因が①だとするとなぜインスリンが強く作用したのかを考えます。インスリン製剤は使用していません。SH基含有薬剤の使用後のインスリン自己免疫症候群は否定できませんが、そのような薬剤の使用歴はありません。インスリンの分泌を促進するような薬剤も服用していません。膵臓に発生するインスリノーマ(発生頻度は年間100万人あたり1.4人と非常に稀)かもしれませんが、まずはもっと有りうる状態を考えます。

病歴を知らなければなりません。この方は胃の全摘術を受けておられます。であれば可能性が最も高いのは、後期ダンピング症候群とされる状況です。食後2~3時間後に、頭痛、発汗、動悸、めまい、脱力感などが起こり、時に気を失ってしまうこともあります。原因は、急に小腸に移動した食物(糖質)による高血糖で、血糖を下げるためにインスリンの追加分泌が過剰となり低血糖になってしまうのです。この方は低血糖症状を自覚されていませんでした。おそらく、この状態に慣れてしまっておられるのでしょう。

高血糖後の低血糖は胃切除をしていない人にもおこることがあり、機能性(反応性)低血糖と呼ばれています。食後2時間から4,5時間後までに精神的・身体的症状が出現し精神疾患と間違われる場合もあるようです。異常な空腹感や甘味への異常な欲求が生じることもあります。対策は高血糖状態にしないことです。1回の食事の糖質量を少なくする、ゆっくり食べるなどがあります。食後2時間後位に感じる空腹感に対して低血糖を防ごうとして糖質を摂れば、再び高血糖後の低血糖を招いてしまうことになります。

高血糖と低血糖を繰り返すことは血管へのダメージをより大きくしてしまいますから、つらい症状だけの問題ではありません。くれぐれも糖質の摂り過ぎには気を付けましょう。

平成南町クリニック 玉田