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現代医療に残る誤解

不安定狭心症(冠攣縮狭心症)かもしれない症状があったけれどもすっかり落ち着いている状態の患者さんから相談を受けた場合、もっとも適切な対応は、症状の詳細な記載とホルター心電計による評価、冠動脈の形態評価や攣縮の有無の評価です。しかし、ホルター心電計装着期間内に症状が出ない場合があり、またすぐにはCTアンギオや冠動脈造影検査を決意されないことも多いので、胸痛時にニトログリセリン舌下錠を使用して狭心症かどうかの区別を試みる事があります。
しかし、ここ数年の研究では、ニトログリセンリン舌下錠による胸痛軽減効果をもって冠動脈疾患を区別することはできない事が示されています。
「医師ならば知っておくべき意外な事実」ロバートB.テイラー著 小泉俊三/吉村 学 監訳 メディカル・サイエンス・インターナショナル社発行(2015年12月)の2章 現代医療に残る誤解に物申す の冒頭に上記のことが書かれています。
Steelらの研究では、冠動脈疾患患者がニトログリセリン舌下投与で胸痛が軽減するのは72%(冠動脈疾患患者でも28%の人は胸痛が軽減しない)であり、逆に、冠動脈疾患でない人がニトログリセリン舌下投与で胸痛が軽減しないのは37%(冠動脈疾患でない人も63%の人は胸痛が軽減する)とのことです。
冠動脈疾患で胸痛が軽減する人の数は、冠動脈疾患でないのに胸痛が軽減する人に比べて1.1倍しかない。とのことです。(1倍なら全く差がない)
つまり、ニトログリセリン舌下錠の胸痛軽減効果の有無で狭心症の診断をしてはいけないという訳です。
同じような時代遅れの「プラスチック(似非)・パール」のいくつかが紹介されています。
診断がつく前に腹痛の軽減に麻薬系鎮痛薬を投与すると診断の決定が困難になる(似非パール)
ペニシリンと全てのセファロスポリンには10%の交差アレルギーリスクがある(似非パール)
気管支喘息治療でステロイドを短期間使用したら漸減中止する(似非パール)
寒冷への曝露は上気道感染症に影響しない(似非パール)magnifier1_doctor
※パールとは真珠のことですが、短いフレーズにまとめられた臨床の知恵を「臨床パール」と言います。

根拠や確率が不明な言い伝えや聞き伝えで病気の診断や治療をしていないかを、反省しつつ診療していく必要を感じています。

平成南町クリニック 玉田

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