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睡眠薬の見直し

3月12日に倉敷中央病院看護研修センターで、同院の精神科の土田先生による「不安障害の診断と治療」、同じく精神科の小高先生による「不眠症について」の研修講演がありました。
当院を受診されて不眠を訴えられる方は多くおられ、睡眠薬を処方することが多いです。睡眠薬への依存は30年以上前から指摘されていますが、最近特に注意が喚起されています。小高先生の講演内容を中心に睡眠薬の功罪についてまとめてみます。

睡眠薬の開発
1950年代には、バルビツール酸系薬 非バルビツール酸系薬が使用されました。1960年代にはベンゾジアゼピン系薬が、1980年代には非ベンゾジアゼピン系薬が使われ始めバルビツール酸系薬のような危険性がない安全な睡眠剤として今も多く使われています。これらは何れも GABA 受容体作動薬です。(GABA=ガンマアミノ酪酸 という神経伝達物質の働きを促し、脳の活動を抑えて眠りを誘います。)
その後、GABA 作動薬以外の睡眠薬が開発され、2010年代にメラトニン受容体作動薬が、2014年にオレキシン受容体拮抗薬が使用できるようになりました。

ベンゾジアゼピン系薬物の依存性
ベンゾジアゼピン系薬 や非ベンゾジアゼピン系薬 はいずれもGABA―A受容体複合体にあるベンゾジアゼピン結合部位に結合して薬理作用を発揮するので、これらを合わせて「ベンゾジアゼピン系薬物」と呼びます。
長期(おおよそ6ヶ月以上)に使用していると依存性が生じ、中止できなくなる事が多いとされます。長期使用により以下のような問題が生じます。転倒しやすくなる、呼吸抑制を生じる、せん妄を生じる、認知機能を低下させる(かもしれない)、ストレスなどの問題に対して薬以外の対処が困難になる。また、中止した時に離脱症状が現れます。強い不眠、不安、恐怖、感覚過敏、目の眩しさ、耳鳴、頭痛、筋けいれん などが生じます。
一般的には薬剤依存は過度の使用を続けて生じるのですが、ベンゾジアゼピン系薬物は日々の使用では安全・効果的な常用量でも長期間使用で依存を来すので厄介です。効果が強く、作用時間が短いものほど依存性が高いとされます。

ベンゾジアゼピン系薬物からの脱却
そもそも不眠症とは、夜間不眠の訴えがあり かつ 睡眠不足に関連して日中の精神・身体機能の影響がある状態であり、下記は「不眠症」の症状ではないとされます。  睡眠の質の低下、朝の爽快感がない、熟眠障害。これらを改善するために薬剤を使用する必要はないとされます。
日中の精神・身体機能の影響がある場合には何らかの介入が必要ですが、なるべくベンゾジアゼピン系薬物ではなく、依存性が強くはないとされるメラトニン受容体作動薬やオレキシン受容体拮抗薬の使用が勧められています。これら以外で眠りを誘う薬としては、漢方薬の抑肝散や鎮静作用のある抗うつ薬が選択できます。
既にベンゾジアゼピン系薬物に依存を生じている場合には、少量ずつ減らして行く、隔日投与などにする、他の睡眠剤を上乗せしてから減薬していく、不眠の概念を正しく理解して薬に頼らない不眠対策を考える、などの方法があります。
実際には依存から脱却するのは困難ですが、長期使用による危険性を考え脱却していく努力が必要です。考え方を変えるのに遅きはありません。言ってきた事と違うことを言うことを恐れてはいけないと思います。

平成南町クリニック  玉田