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腎機能低下時の降圧薬

高血圧の治療薬でよく使用されるものに、RAS阻害薬があります。RASとはレニン・アンギオテンシン系のことでRAS阻害薬には、ACE―I(アンギオテンシン変換酵素阻害薬)とARB(アンギオテンシンⅡ受容体遮断薬)の2種類があります。どちらも最終的にアンギオテンシンⅡという昇圧物質の作用を低下させて血圧を下げる効果があります。2種類とも降圧薬としてよく使われる薬です。次いでよく使用される降圧薬は、長時間作用型Ca拮抗薬です。
腎臓の働きが低下するのを防ぐためには血圧の適正なコントロールが必要ですが、慢性腎臓病(CKD)の教科書には、一定の注意が必要だが血清Cr値※が高くてもRAS阻害薬が第一選択薬であり有用であるとなっています。長時間作用型Ca拮抗薬は血圧変動が大きい場合やⅢ度高血圧(180/110以上の高血圧)の場合には推奨されるとしてあり2番手の降圧薬の扱いになっています。icon_medical_man04
当院の通院患者さんで元々腎機能低下があり長時間作用型Ca拮抗薬で血圧コントロールができていた方が経過中に高度の皮膚炎と好酸球増多を生じ、皮膚科の先生から降圧薬が原因かもしれないと指摘されました。Ca拮抗薬を中止してACE―I 薬で高血圧コントロールを行いました。皮疹や好酸球増多は改善傾向がみられましたが、腎機能がさらに低下し腎臓病専門医へ紹介して対応をお願いしました。降圧薬としては血管拡張作用のある長時間作用型Ca拮抗薬を中心に使用するのが良く、腎機能が低下してGFRが少ない場合にはACE―IやARBは使用しないようにとのアドバイスを受けました。
しかしながら、この患者さんはアレルギーのためCa拮抗薬が使用できず、α遮断薬、β遮断薬で血圧をなんとかコントロールしています。ACE―I 中止後には腎機能は軽度回復しました。皮疹や好酸球増多は数か月かけて改善しました。
他の腎機能の低下している患者さんでも長期使用していたACE―IやARBを中止して他の降圧薬に変更すると、腎機能を評価するeGFR値が若干改善することを実感しています。今後は腎機能低下のある高血圧患者さんへはACE-IやARBの投与を中止して他剤の組み合わせに変更していく計画にしています。
実診療専門医から見ると、教科書的な治療法が常識ではない場合があるものです。kouyou_kuma
※血清Cr値:Crはクレアチニンのことで、クレアチンの代謝産物です。腎臓の糸球体から濾過されて尿に出ていきます。腎機能が低下すると尿中への排泄が減り血液のクレアチニン値が増えます。クレアチンは筋肉収縮のためのエネルギー源であり運動により消費されてクレアチニンに変化します。従って作られるクレアチニンは筋肉量・運動量によって異なります。血清クレアチニン値を性別・年齢で補正して計算したものがeGFR(推算糸球体濾過値)です。

平成南町クリニック 玉田