月別アーカイブ: 2016年8月

貧血の方が良い?!

貧血の診断は、多くは血液中のヘモグロビン濃度(ヘモグロビンは酸素を運搬する血色素です)で行います。貧血は以下ように定義されます。(Hb=ヘモグロビン 単位はg/dLです。)

60歳未満 男性Hb 13.5未満・女性Hb 11.5未満
60歳~70歳未満 男性Hb 12.0未満・女性Hb 10.5未満
70歳以上 男性Hb 11.0未満・女性Hb 10.5未満

さて貧血の治療をいつ始めるのがよいか、目標とするヘモグロビン値はどれ位が良いのかについて次のような文章がありました。「極論で語る総合診療」 桑間雄一郎著(米国 マウントサイナイ・ベスイスラエル日本医療部門) 丸善出版 H28年6月30日発行 212頁~217頁。 AABB(アメリカ血液銀行協会)ガイドラインによれば、
集中治療室患者での輸血の目標はHb7~8g/dLが良い。
また、論文 Am J Cardio12 2008:102(2) 115-9 によれば、
急性心疾患:急性心筋梗塞においてはHb8g/dLを下回った場合に輸血する。となっているそうです。

いずれも「貧血」の基準値をかなり下回った時に治療を開始することになります。

現在用いられているヘモグロビン正常値(基準値)は、はるか昔の進化の過程で獲得した十分な備えとしての値であり、出血の危険や限界に近い運動の必要性があまりない安全な生活を送っている現代人にとっての目標値ではないと考えるのだそうです。
(血小板基準値は、13万/μL以上ですが安全な現代人にとっては2~3万/μLあれば十分とのことです。)

また、腎機能が低下して起こる腎性貧血の治療のエリスロポエチン製剤を使用する時のヘモグロビン値の治療目標は次のようにされています。

保存期慢性腎臓病(CKD)では、11g以上13g未満(重篤心血管系の既往・合併あれば12g未満)
高齢者では、13g以上にならないようにする(開始基準は10g/dL未満とする)
ヘモグロビン13.5g/dL以上の値そのものが危険因子になる(死亡・心筋梗塞・心不全入院・脳卒中罹患率)

非高齢男性の基準値がむしろ危険であると言うのは驚きです。

これらを総合すると、「ヘモグロビンが低下してきている原因を放置してはいけないが、慢性的に低い場合は少な過ぎない限りむしろ生命にとって有利かもしれない。」となります。

「貧血がありますよ。」と言う説明は、よほど深く考えてから行わなければならないと感じました。

平成南町クリニック 玉田