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薬剤性吸収不良症候群

2016年2月18日のNHK『ドクターG』の症例は、千葉大学附属病院 生坂正臣先生提示の降圧薬の『オルメサルタン※による小腸絨毛障害が原因の吸収不良症候群』でした。吐き気・食欲低下・下痢便・体重減少が続き受診、経過中の問診でビタミンB1欠乏によるウェルニッケ・コルサコフ症候群※※が判明しています。
オルメサルタンは加水分解されてから活性を持つようになるが、加水分解されないまま小腸から吸収されると局所の免疫反応が惹起されて小腸上皮細胞が障害されると言う仮説があります。丁度、セリアックスプルーと言う病気に似た状況をきたすようです。オルメテックの添付書には長期投与により頻度不明の体重減少を伴う重度の下痢があらわれることがあると記載はされていますが、吸収不良症候群を起こしうるという記載はありません。
セリアックスプルーは栄養吸収不良を起こす病気です。特定の遺伝子(HLA-DQ2/DQ8)を持った人が、小麦蛋白のグルテンを摂取すると小腸粘膜で自己免疫反応が生じて炎症が起こり、吸収不良による栄養障害をきたします。日本人では稀とされます。
しかし、他のARB降圧薬のバルサルタン(ディオバン)、イルベサルタン(イルベタン)でも同様に吸収不良が出ることがあるようです。
また、降圧薬以外でも、NSAIDs(鎮痛解熱薬)、抗精神薬、メトホルミン(糖尿病薬)でも、吸収不良が起こり得るとされます。
原因のはっきりしない体重減少、吐き気、下痢、貧血、舌炎、記憶障害、作話などがあった場合には、服用している薬剤も原因として考える必要があるという教訓でした。
症状・所見が改善しない時には、頻度の少ない副作用や記載されていない副作用も考えて、使用中の薬剤を見直すことが肝要と改めて感じました。

※ARBに分類され、薬品名は単剤オルメテック・合剤レザルタス
※※ウェルニッケ脳症+後遺症としてのコルサコフ症候群) 意識障害・眼球運動障害(眼振)・小脳失調(ふらつき・歩行障害)、後遺症としての健忘(記憶力の著しい低下)や作話がある。

平成南町クリニック 玉田