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検脈

最近、動悸を訴える方が多いように感じています。動悸とは心臓の拍動を自覚する症状ですが、命に係わる心臓の病気の徴候であることは稀で心臓病のない多くの人でもある症状です。とは言え動悸を訴えておられたら疾患がないかどうか心配になります。
検脈(脈拍を触れて異常がないかどうかの確認)と心電図検査を行います。共に異常がない場合は、心臓以外の原因を考えます。しかし診察時に異常がないだけかもしれません。繰り返す場合や動悸以外の症状を伴う時には繰り返し検脈・心電図検査を行うか、ホルター心電図検査を計画します。
検脈と心電図に「異常なし」とするには、①徐脈(60未満) 頻脈(100以上) でない ②不整脈(不整拍)が無い(検脈で異常なくても心音で不整拍が判ることがあります) ③心電図が洞調律である が必要です。

洞調律とするには、(1)P波の「向き」が正常、」即ちⅠ Ⅱ aVF 誘導とV4,5,6誘導で上向きのP波、 aVR誘導で下向きのP波 (2)QRS波の手前にコンスタントにP波がある (3)隠れP波が無い。隠れP波を探すには、V1誘導で QRSの手前以外にP波らしい波がないか T波 やQRSに重なっていないか を丹念に見る必要があり、微かなP波の異常は自動診断では見逃されていることがあるようです。(心房頻拍など)
これらが全てクリアできれば「洞調律」と言えます。洞調律であっても徐脈や頻脈であれば原因の検索が必要です。
洞調律で頻脈の場合を洞性頻脈と言います。生理的な頻脈が多いですが、生理的な心拍数は「220-年齢」(80歳なら140)以上にならないとされています。(洞結節性頻拍症でもP波は正常であり通常の心電図では区別できませんが、洞性頻脈と異なり安静時でも突然頻脈になり、突然治まることで区別します。) 安静時にも洞性頻脈なら心疾患ではない異常(電解質異常や甲状腺ホルモン異常など)を確認する必要があります。
心房頻拍の場合は安静時には伝導率が低下(2回~4回の心房拍動に一度心室が収縮する)していて頻脈ではないが心房拍や上室拍は頻拍であり、運動などで伝導率が改善した時に急に頻脈となって動悸を自覚し、しんどくて動けなくなる場合もあります。頻拍の経過が長いと心機能低下を来しているかもしれません。

不整脈でよく見られるのは、上室性期外収縮です。動悸などを自覚していない人も多いです。症状はなくても 自動血圧計が脈拍異常を表示するので心配になり相談される人もあります。大抵は経過観察で良いのですが、上室性頻拍を伴っている場合には失神の危険もあります。また、上室性期外収縮は心房細動の潜在的リスクと考えられるようになって来ています。心室性期外収縮もよく遭遇する不整脈です。いずれも、不快な症状を伴う場合や不整脈の頻度が高い場合にはホルター心電計で確認します。
検脈だけでほぼ推定できるのが心房細動です。絶対性不整脈を呈するからです。心房細動を疑って心電図で確認しても心房細動でない場合もありますが、推定通りが多いです。心房細動(時々心房細動になっている発作性心房細動も含めて)があると、左心耳に血栓が生じて脳梗塞を起こす危険性が高くなるので、通常は何らかの対策を講じます。洞調律に戻す(薬剤やカテーテル焼灼術)、抗凝固療法を行う、頻脈を抑える、左心耳を手術的に塞ぐ(最近ではカテーテル治療で行う) などの対策があります。

様々な不整脈の治療は従来薬剤が主でしたが、薬剤の不利益もあるので、最近では技術の進歩によりカテーテルアブレーション治療(不整脈の起源になっている組織部分を焼灼や冷凍で破壊する)が選択されることが増えています。
当院ではよほどのことが無い限り、診察時にまず血圧測定と検脈を行います。症状がなくても心房細動やその他の危険な不整脈を見逃したくないからです。無症状でも上室期外収縮や心室期外収縮はよく遭遇します。また年に2~3人の無症状の心房細動の方を診断しています。
動悸や胸部違和感がある時に御自分で検脈していただけると診断に役立ちますので、検脈の仕方を説明しています。 ※徐脈については後日に述べてみます。

平成南町クリニック 玉田