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呼吸数を確認しておこう

新型コロナウイルス感染症での重症度を評価する指標に、動脈血酸素飽和度があります。

呼吸困難がないまま低酸素状態で重篤化することがあるので酸素飽和度の早めの評価が推奨されています。動脈血酸素飽和度とは、動脈血中の赤血球酸化ヘモグロビンの割合で最高100%です。SpO2は、パルスオキシメーター※で測定した酸素飽和度のことです。75%以下では誤差が大きく、90%以下では機種により±5%の範囲での誤差があるとされています。

日本呼吸器学会 2014年3月 「よくわかる パルスオキシメーター」では、SpO2正常値を96%~99%。呼吸不全:90%未満。3~4%の低下→早めに受診。90%未満→速やかに受診。としています。「新型コロナウイルス感染症診療の手引き 第4.1版 2020年12月25日」では、軽症 SpO2≧96% 中等症 93%<SpO2<96% 中等症Ⅱ SpO2≦93% 呼吸不全あり 重症 重症肺炎 と記載しています。

しかし、「SpO2の異常がないから、呼吸障害では無い」と考えるのは誤りであり、呼吸障害時にはまず呼吸数が増加しその後にSpO2が低下します。英国の4C Mortality Scoreは合計スコアで肺炎の死亡率を予測するのですが、呼吸数がSpO2と共に評価スコアになっています。即ち、呼吸数20~29 スコア+1、≧30 スコア+2 SpO2<92% スコア+2。また、新型コロナウイルス肺炎診療ガイドライン 中華人民共和国 2020年8月18日では、肺炎の評価を 軽症、中等症、重症、重篤に分け、重症(小児以外)とは次のいずれかに該当するもの として、1.呼吸が早く、呼吸回数≧30回/分、安静状態で吸気時の経皮動脈血酸素飽和度≦93% 2.動脈血酸素分圧(PaO2) / 吸入酸素濃度(FiO2)≦300mmHg 3.臨床症状が進行的に重症化し、肺の画像所見で、24~48時間内に病巣の進展が50%を超える者 と、呼吸数を評価の1つにしています。

日本においては、2020/4/30 日本医師会「新型コロナウイルス感染症 外来診療ガイド」で重症化を疑う指標として呼吸数24以上、SpO2<93%以下を挙げています。(2020年12月25日新型コロナウイルス感染症診療の手引き 第4.1版 においては、重症度分類に呼吸数の評価はなされていません。)
呼吸数(1分間の呼吸回数 30秒~1分間数える)は、血圧、脈拍、体温などと共に「バイタルサイン」ですが、日常診療では省略されることが多いです。2005年の日本呼吸器学会作成 成人市中肺炎診療ガイドラインで、「呼吸数の測定は肺炎治療上極めて重要なことであるので呼吸数測定を推奨する」と 臨床的意義を高く評価しているのですが、呼吸数記録症例が少なかった為、肺炎重症度を決める因子として採用されませんでした。

年令別の呼吸数正常範囲は、10歳17~23、成人12~18、65歳~79歳12~28、80歳以上 10~30 とされています。個人差がありますのでその人のその時の呼吸数で異常かどうかを判定するのは困難です。普段の呼吸数からどの程度増えた時に「異常」と見なすのかについては統計資料が無く不明ですが、その人の変動幅が判っていれば、それを超える時には異常事態と認識できます。
普段の安静時呼吸数を記録しておくことが肝要です。当院では、全ての人の受診時の呼吸数を記録しています。皆さんも御自分の呼吸数を確認しておきましょう。
※パルスオキシメーター  日本光電の技術者 青柳卓雄氏が1972年に発表。装置発売1975年。

環境光、透過光(機器LEDからの赤色光 機器LEDからの近赤外線) の3種類を順番にセンサーで受光し組織を透過した光量の比率や変動率で組織内の細動脈血の酸素飽和度を示す。次のような測定障害があります。①末梢循環不全(循環血液量の不足、低血圧、低体温、末梢血管収縮) SpO2 85%付近へ収束 ②体動や三尖弁不全による静脈の拍動 赤色光の吸光度が大きくなりSpO2が低めに出る ③センサの装着不良 組織の外周から直接受光部にLEDからの光が入る 爪の汚れ・マニキュア・爪白癬などで射入光が減衰して動脈に充分到達しない ④測定部周囲の光学的・電気的雑音が大きいとSpO2 85%付近へ収束 ⑤血中の色素(メチレンブルーなど)や異常Hbによる影響。①と②が多いとされています。

 
平成南町クリニック 玉田