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夏の疲れ? 潜在的鉄欠乏?

まだ梅雨明けにはなりませんが、蒸し暑い日が続くとだるさが溜まり辛い方もおられるのではないでしょうか。
気候や年齢のせいだと思っていても、だるさの原因が貧血のこともあります。しかし、貧血がなく血清鉄値が正常範囲でもフェリチン値が低くて貧血と同じような症状が出る場合があります。
これを非貧血性鉄欠乏(潜在的鉄欠乏)と言います。月経のある成人女性の36.2%で潜在的鉄欠乏があると言われています。以下の症状が現れます。

倦怠感 脱力 頭痛 いらいら感 運動能力低下 労作時呼吸困難 めまい 狭心症 むずむず脚症候群 失神

身体所見も鉄欠乏性貧血と同様な場合があります。

顔面蒼白 皮膚の乾燥 肌荒れ 青色強膜(白眼が青みがかって見える) 萎縮性舌炎 口唇症(口唇炎・口角炎) スプーン爪 食道ウェブ(食道の上方1/3に粘膜に薄い膜ができて固形物が飲み込みにくくなる) 脱毛 収縮期雑音 頻脈など

このような症状がある時には男性でも貧血や潜在的鉄欠乏がないかを調べておく必要があります。
潜在的鉄欠乏は鉄剤服用によって症状や所見が改善します。
鉄剤が服用しづらい場合は、半錠にする・顆粒薬少量にするなどして1回量を減らすと継続できることが多いです。お茶と同時に鉄剤を飲んでも殆ど影響しません、また吸収促進させるためのビタミンCもまず不要とされています。

鉄不足や潜在的鉄欠乏になる原因として月経以外にも胃潰瘍や胃癌、大腸癌からの消化管出血を忘れてはいけません。

さて以上とは逆に、血清鉄値が低くてもフェリチン値が高い場合もあります。
フェリチンを含有している細胞(多くは細網内皮系細胞)からのフェリチンは輸送蛋白のフェロポルチンで輸送されてトランスフェリンと結合できますが、肝臓で形成される「ヘプシジン-25」がフェロポルチンの発現を阻害するのでフェリチン中の鉄が血清に運ばれなくなり、フェリチンは高値で鉄が低値になります。
急性感染症や慢性炎症の時のIL-6や他の液性因子が肝臓を刺激してヘプシジン-25が増加します。細菌感染時にヘプシジンが増える目的は、細菌増殖に必要な鉄を細菌が利用できなくすることにあります。尿路感染時の鉄欠乏・フェリチン高値が感染症治療後には改善することはしばしば経験します。
フェリチン高値が持続する場合には悪性腫瘍、骨髄疾患、膠原病などを区別する必要があります。
貧血やフェリチン値異常の原因追究は奥が深くなかなか一筋縄ではいかないものですが、重大な原因を見逃さないように注意深く結果を解釈する必要があります。

(文光堂 「さらに!一発診断100」 9:体がだるいんです P16 などを参考にしました。)

平成南町クリニック  玉田