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腎性貧血

「NHKスペシャル 人体-神秘の巨大ネットワーク第1集“腎臓“が寿命を決める」が放映されました。

腎臓の持つ様々な機能についてCGを用いて作られていました。赤血球産生にかかわるエポ(エリスロポエチン)、血圧調節にかかわるレニン(傍糸球体細胞が分泌)、電解質調節―特にリン濃度調節などについて語られています。腎臓は全身臓器のネットワークの要であるので、腎臓機能が寿命を決め、腎臓を守ることで生命を救うというメッセージでした。腎機能指標の一つに糸球体濾過量GFRがあります。通常は血液中のクレアチニン濃度から計算するeGFRを用います。このeGFRが60mL/分未満の状態を慢性腎臓病として捉え注意を喚起することが重要とされています。年齢と共にGFRは低下することが多く、当院を受診される慢性腎臓病の方も多くおられます。そして腎性貧血の方も次第に多く経験するようになりました。

腎性貧血は糸球体濾過量GFR60mL/分 未満でその頻度が有意に増加すると言われています。鉄剤の補給では貧血が改善しません。腎性貧血の原因は多くありますが代表的なものがエリスロポエチン不足です。

慢性腎不全になると腎臓の尿細管間質細胞(京都大学腎臓内科学教室の研究によれば尿細管の間質を形成する神経堤由来の線維芽細胞)で産生されるエリスロポエチンが十分に分泌されなくなり造血障害を起こします。(赤芽球系前駆細胞の増殖・分化が抑制されて前赤芽球が増加しなくなります)

エリスロポエチンの血漿中濃度は貧血の進行(ヘマトクリット減少、ヘモグロビン減少)に伴い上昇します。貧血がない時は4.2(7.4)~23.7(29.8)mIU/mLであり殆どは10mIU/mL以下ですが、ヘマトクリット30%の貧血では100mIU/mL程度に上昇すると言われています。貧血にも拘らずエリスロポエチン濃度が正常範囲の時には、エリスロポエチンの相対的不足があると考えられます。但し、腎性貧血の原因はエリスロポエチンの不足以外に、赤血球寿命の短縮・骨髄赤血球造血の抑制・鉄代謝障害・造血に必要な栄養素(亜鉛、銅、ビタミンB12 葉酸など)の不足などがありますので、それらの除外も必要です。

エリスロポエチン不足はエリスロポエチン製剤の皮下注射で治療します。最近は血中半減期の長い製剤を使用することが多く、2週間ないし1ヶ月に1回の注射で維持できることが多いです。

改善するまでの投与量や改善してからの維持量は同等の腎機能低下でも個人差があります。おそらくエリスロポエチン不足以外の要因に左右されると思われます。また、治療による貧血改善と共に栄養素不足が生じてくることもありそれらの補充が必要となることもあります。

なんと言っても腎機能を低下させないような生活、注意が肝腎です。禁煙や高血圧・糖尿病の予防・適切なコントロールが重要です。また薬剤による腎機能低下も多くみられます。薬局で購入できる鎮痛薬でGFRが低下することもあります。必要な治療薬であっても腎機能の低下に応じて減薬や中止を考慮しなければなりません。冒頭のNHKスペシャルでも、腎疾患以外の治療でも腎機能に目を配り、腎障害が高度なのでそれまでの治療薬剤を一時中断して生命を救った事例の紹介がありました。

どのような治療を行う時でも腎機能に注意して薬剤の量や種類を考慮しなければと考えています。

平成南町クリニック 電話086-434-1122
平成南町クリニック 玉田