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遺伝性血管性浮腫

蕁麻疹は表皮の下の真皮内での血管透過性亢進によって表皮が膨れ上がる境界明瞭な浮腫ですが、血管性浮腫は真皮深層や皮下組織深部での血管透過性亢進でおこる境界不明瞭な浮腫です。心不全などで起こる浮腫は指で押さえると跡を残す圧痕性浮腫ですが、血管性浮腫は圧痕を残しません。

一般的な対処法である抗ヒスタミン薬やステロイド剤では効果のないタイプの血管性浮腫に、遺伝性血管性浮腫があります。免疫反応(抗原抗体反応)の進行に必要な補体の中のC1を制御するC1-インヒビターが欠損しているか活性が低下しているために血管性浮腫が生じてしまうのです。10歳代から20歳代に多く発症しますが高年齢になって発症する場合もあります。浮腫が体のどこに起こるかは一定せず、首の回り・喉頭に起こると窒息の危険があります。消化管に生じると原因不明の急な腹痛で開腹術に至ることもあります。数時間かけて症状が進行して24時間後にピークとなり、3日~数日で治まっていきます。週単位から年単位で再発作が生じます。きっかけとして精神的ストレス、抜歯や怪我・過労・寒冷環境などの肉体的ストレス、妊娠・月経、誘因薬剤などがあります。5万人に1人程度の発症があるとされます。(未診断の方が多いと言われています)
同じくC1-インヒビターの欠損や活性低下でおこる後天性血管性浮腫もあります。40歳以降50歳代から60歳代にかけて発症することが多いとされています。リンパ増殖性疾患やSLEなどの自己免疫疾患、あるいは男性の性機能低下が原因になります。
遺伝性ないし後天性血管性浮腫は次の場合に疑います。蕁麻疹を伴わず抗ヒスタミン薬やステロイド剤が無効の浮腫で、再発が多い・家族歴がある・再発性の腹痛発作がある、上気道の浮腫をきたす場合など。
血管性浮腫の原因にはその他に薬剤誘発性、アレルギー性、好酸球性などもありますが、その人がC1-インヒビターの異常を持っている場合には特に薬剤性血管性浮腫の症状が重篤になり易いので要注意です。
薬剤性血管性浮腫の原因薬剤には、降圧薬(アンギオテンシン変換酵素阻害薬、アンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬)、血糖降下薬(DPP4-阻害薬)、鎮痛薬(NSAIDs)、血管造影剤、筋弛緩薬、エストロゲン製剤などがあります。
C1-インヒビターの欠損や活性低下の血管性浮腫を疑った場合には、補体のC4を調べます。浮腫が生じている場合が適していますが、浮腫が改善した後でもC4が低下していることが多いとされています。C4の低下がなければ、遺伝性/後天性血管性浮腫ではないとして良いようです。 C4の低下があればC1-インヒビターの活性を調べます。(これらの検査は保険適応があります) これらの結果とC1-インヒビター蛋白量(保険適応なし)が低値かどうか、家族歴があるかどうか、発症年齢などで確定診断を行います。

治療や予防にはステロイドや抗ヒスタミン薬ではなく、トラネキサム酸(止血剤としてや咽喉頭炎時の消炎などによく用いる薬剤です)やC1-インヒビター製剤(静注する血液製剤です)を用います。その他にブラジキニンB2受容体拮抗薬のイカチバント(商品名フィラジル 自己皮下注射も可能です)があります。それ以外にも日本では未承認の新しい薬剤もあります。

誘因が特になく数時間かけて増強し数日で軽快した両大腿部浮腫の方がおられました。軽快中に来院されましたが、C4の低下はなく遺伝性/後天性血管性浮腫ではないと判断しました。(原因は今のところ不明です)

遺伝性/後天性血管性浮腫に当てはまる浮腫の経験のある方や家族歴のある方は、確定診断をつけて予防しておくことが重要です。(遺伝性血管性浮腫の診療を、岡山県では川崎医科大学皮膚科でされています。)

平成南町クリニック 玉田