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感染予防抗体価

4月に医療関連の学校や大学校・大学に入学される方々が、麻疹や風疹ワクチン接種のために当院を受診されています。医療機関での実習や研修の予定がある場合、感染予防できる抗体量を持っている必要があります。一般的には発症予防に充分な抗体価(抗体価陽性)があれば良いです。しかし医療関係者は各自が麻疹などを発症してなくても、ウイルスに感染してしまうと患者さんや利用者さんに麻疹などを感染させてしまう危険性が生じます。そこで感染予防に必要な抗体量(発症予防の抗体量よりも多い)を持っていることが望まれます。
2014年9月に「医療関係者のためのワクチンガイドライン第2版」が日本環境感染学会から出されました。
対象となるウイルスは、B型肝炎・麻疹・風疹・流行性耳下腺炎・水痘の各ウイルスです。
B型肝炎ウイルスについては、患者さんに接触したり血液や体液に接触する可能性がある場合を除いて特に注意書きのない教育機関が多いようです。
麻疹・風疹・流行性耳下腺炎・水痘の各ウイルスについては図1のフローチャートに基づいて免疫状態証明書の提出を求めています。感染予防に必要な抗体価は「基準を満たす抗体価」で示されています。(表1)
これらの疾患に罹ったことがあると終生免疫が生じると考えられていましたが、実際には抗体価は時間と共に低下していくことが判っています。終生免疫があると思われていたのは、実は時々ウイルスに曝露されて抗体価が再上昇していたからなのです。疾患自体が殆ど流行しなくなるとウイルス曝露がなくなり抗体価が維持されなくなる可能性は十分あります。まだまだ水痘や流行性耳下腺炎の流行はあります。風疹も地域的に流行は起こっています。麻疹はまだ根絶されてはいませんが流行はかなり減っています。
ワクチンを2回接種すれば感染防止抗体量ありと判定して抗体量測定は必須とされていませんが、実際に2回接種してもどうしても抗体陽性にならない人も存在します。また、陽性になっても数年以上経過すると抗体価は減少して、発症予防抗体価は維持できていても感染予防抗体価に達していない場合があることが判明してきています。「MRワクチン2回接種後(第2期、第3期)の血清抗体持続に関する検討  小児感染免疫 第29巻 No1、2017年」 本論文は6年後の検査結果の検討ですが、論文筆者はさらに長期間の検討を要すること、MRワクチンの3回目接種の検討も必要と結んでいます。
当院を受診された方の中に麻疹ワクチン2回接種後11年後でしたが、上記の内容を説明して麻疹抗体価を測定してみるようお勧めした方がおられます。抗体価は陽性でしたが基準に達していなかったので麻疹ワクチンを1回追加接種としました。ワクチン接種歴によらず全ての抗体価を検査するよう求めている医療関連教育機関もありました。
私見としましては、罹患歴やワクチン接種歴に関係なく抗体価を測定して、感染防止抗体価(基準を満たす抗体価)がない場合に、ワクチン接種歴に応じて追加ワクチンを1回ないし2回接種するのが合理的だと考えています。それらの費用は現在全て実習予定者本人負担ですが、実習生自身の発症を防ぐ目的以上に患者さんや利用者さんへの感染を防ぐことが第一の目的なのですから、教育機関が負担したり補助したりすべきではないでしょうか。

 

(図1)

(表1)

 

 

 

 

 

 

 

平成南町クリニック 玉田