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湿潤療法による傷の治療

指先をスライサーで切断してしまい皮膚欠損を生じた方が受診されました。他院で、縫合しなければならないと言われたたそうですが、縫合を拒否して当院の湿潤療法を希望して来られました。皆さんは傷にどのような処置をしていますか。楽にきれいに治したいものですね。当院では「湿潤療法」で治療しています。
私は、夏井 睦先生のブログ「新しい創傷治療 消毒とガーゼの撲滅を目指して」で湿潤療法を知りました。
皮膚の傷は、まず水道水で洗浄しますが細胞障害となる消毒はしません。異物を取り除くことは最重要です。縫合することが容易で無理がない場合は縫合しますが、縫合すると変形したり短縮してしまうと予測されるなら、無理に縫合はしないで創を開放したままで湿潤療法を行います。出血している傷には止血用のヘモスタパッドを当てて毎日交換し、止血すればプラスモイストやハイドロコロイド包帯に変更します。
指先の切断創では文頭の方もそうでしたが、数日で切断創が元の丸みを帯びてきます。まだ経験はありませんが、爪の基部が残っていると爪を含む指先の組織が再生することが確認されています。
ご高齢の方では打撲やずれによる表皮剥離を生じることが多いですが、縫合やテープ固定をしなくても湿潤療法で2~3週間で治癒します。
ガーゼやメッシュ状被覆材など創に固着してしまう被覆材を使用すると、処置の度に痛みが強く出血してしまい治癒までの期間が長くなり、傷跡が目立ちます。しかし固着しない被覆材を用いればそのような事がなく楽にきれいに治すことが出来ます。また、挫滅創を縫合したり遊離切断片を単純に縫合した場合も、湿潤療法を行うと壊死脱落が起こりにくく治癒までの期間が長引きません。
湿潤療法を行えば線維芽細胞増殖因子製剤のスプレーを使う必要はありません。また二次感染に適応となっているスルファジアジン銀クリームは、浅い傷を深い傷にしてしまうので絶対に使用しません。
「傷は消毒して乾かして治す」と思い込んでいる方は、ぜひ考えを新たにして下さい。

補足(1) 深い刺し傷や動物咬傷は傷口が塞がれると感染必発ですので、そうならないように太めのナイロン糸(縫合糸)をU字に曲げて差し込んでドレナージします。

補足(2) どのような皮膚の傷でも、もし感染を起こした場合はペニシリン剤か第一世代のセファロスポリン剤の抗生物質を内服します。猫や犬の咬傷の場合はβラクタマーゼ阻害剤配合薬やマクロライド系薬を選択します。緑膿菌感染を疑う場合にはニューキノロン薬を用いるなど傷や受傷状況に応じて抗菌薬を選択します。

平成南町クリニック 玉田

低血糖

syokuji_kasyokusyou定期血液検査で血糖値が59mg/dLだったので、主治医の先生から「もっとしっかり食べるように」と説明を受け、しっかり食べたら下痢をしてしまった患者さんがおられました。
この方は、本当はどうすれば良かったのでしょうか。
まず血糖値が59mg/dLの低血糖であった理由を考えなくてはいけません。低血糖になる理由は、
①インスリン誘発性
②糖新生障害
③インスリン拮抗ホルモン低下
④敗血症
⑤絶食・過度のダイエットあるいは厳格な糖質制限食を続けている に分けて考えます。

この方は、臨床的に④の敗血症ではなく、③の原因になるような下垂体機能低下、副腎機能低下、甲状腺機能低下はありません。カテコールアミンやグルカゴンの分泌を抑制するβブロッカーは服用されていませんでした。 また②の糖新生を障害するような肝硬変、糖原病ではなくアルコールを飲んではおられません。そうすると原因は⑤か①となります。採血をしたのは普通に朝食を摂ってから2時間後で特に糖質制限食にしていた訳ではありません。そこで⑤の原因は考えにくいです。

原因が①だとするとなぜインスリンが強く作用したのかを考えます。インスリン製剤は使用していません。SH基含有薬剤の使用後のインスリン自己免疫症候群は否定できませんが、そのような薬剤の使用歴はありません。インスリンの分泌を促進するような薬剤も服用していません。膵臓に発生するインスリノーマ(発生頻度は年間100万人あたり1.4人と非常に稀)かもしれませんが、まずはもっと有りうる状態を考えます。

病歴を知らなければなりません。この方は胃の全摘術を受けておられます。であれば可能性が最も高いのは、後期ダンピング症候群とされる状況です。食後2~3時間後に、頭痛、発汗、動悸、めまい、脱力感などが起こり、時に気を失ってしまうこともあります。原因は、急に小腸に移動した食物(糖質)による高血糖で、血糖を下げるためにインスリンの追加分泌が過剰となり低血糖になってしまうのです。この方は低血糖症状を自覚されていませんでした。おそらく、この状態に慣れてしまっておられるのでしょう。

高血糖後の低血糖は胃切除をしていない人にもおこることがあり、機能性(反応性)低血糖と呼ばれています。食後2時間から4,5時間後までに精神的・身体的症状が出現し精神疾患と間違われる場合もあるようです。異常な空腹感や甘味への異常な欲求が生じることもあります。対策は高血糖状態にしないことです。1回の食事の糖質量を少なくする、ゆっくり食べるなどがあります。食後2時間後位に感じる空腹感に対して低血糖を防ごうとして糖質を摂れば、再び高血糖後の低血糖を招いてしまうことになります。

高血糖と低血糖を繰り返すことは血管へのダメージをより大きくしてしまいますから、つらい症状だけの問題ではありません。くれぐれも糖質の摂り過ぎには気を付けましょう。

平成南町クリニック 玉田

薬剤性吸収不良症候群

2016年2月18日のNHK『ドクターG』の症例は、千葉大学附属病院 生坂正臣先生提示の降圧薬の『オルメサルタン※による小腸絨毛障害が原因の吸収不良症候群』でした。吐き気・食欲低下・下痢便・体重減少が続き受診、経過中の問診でビタミンB1欠乏によるウェルニッケ・コルサコフ症候群※※が判明しています。
オルメサルタンは加水分解されてから活性を持つようになるが、加水分解されないまま小腸から吸収されると局所の免疫反応が惹起されて小腸上皮細胞が障害されると言う仮説があります。丁度、セリアックスプルーと言う病気に似た状況をきたすようです。オルメテックの添付書には長期投与により頻度不明の体重減少を伴う重度の下痢があらわれることがあると記載はされていますが、吸収不良症候群を起こしうるという記載はありません。
セリアックスプルーは栄養吸収不良を起こす病気です。特定の遺伝子(HLA-DQ2/DQ8)を持った人が、小麦蛋白のグルテンを摂取すると小腸粘膜で自己免疫反応が生じて炎症が起こり、吸収不良による栄養障害をきたします。日本人では稀とされます。
しかし、他のARB降圧薬のバルサルタン(ディオバン)、イルベサルタン(イルベタン)でも同様に吸収不良が出ることがあるようです。
また、降圧薬以外でも、NSAIDs(鎮痛解熱薬)、抗精神薬、メトホルミン(糖尿病薬)でも、吸収不良が起こり得るとされます。
原因のはっきりしない体重減少、吐き気、下痢、貧血、舌炎、記憶障害、作話などがあった場合には、服用している薬剤も原因として考える必要があるという教訓でした。
症状・所見が改善しない時には、頻度の少ない副作用や記載されていない副作用も考えて、使用中の薬剤を見直すことが肝要と改めて感じました。

※ARBに分類され、薬品名は単剤オルメテック・合剤レザルタス
※※ウェルニッケ脳症+後遺症としてのコルサコフ症候群) 意識障害・眼球運動障害(眼振)・小脳失調(ふらつき・歩行障害)、後遺症としての健忘(記憶力の著しい低下)や作話がある。

平成南町クリニック 玉田

カミ隠しの頭痛

頭痛慢性頭痛の経験のない15歳の女性が、2日前からの増強する頭痛を主訴に来院されました。手持ちの鎮痛薬を服用して一旦は治まるがすぐに頭痛が戻るとのこと。頭痛の部位は頭全体で拍動性ではない。
外傷なし 発熱なし 上気道炎症状なし 嘔気嘔吐なし 視力障害なし 耳痛なし 齲歯なし 手足の痺れなし
受診の翌日が入学試験でストレスあり。とのことでした。筋緊張性頭痛かな?・・・しかし、まずは診察。
高血圧なし 不整脈なし 眼の充血なし 咽頭所見異常なし Jolt accentuation(イヤイヤするように早く頭を振ると頭痛が増強する)認めず、Neck flection test(項が痛くて顎を胸に付けることができない)陰性・・・髄膜炎は否定的か。
頭蓋内病変の除外に頭部CTが必要か?しかし、頭痛の原因を探るには頭蓋内から最も遠い所、即ち皮膚(頭皮)からです。
皮膚に何かできていませんか?「そう言えば、背中の上の方が少しピリピリします。」見れば、項の下方に紅暈を伴う小さな丘疹が集蔟しています。小さな痂皮を伴うものもあります。帯状疱疹?右側優位で両側にあるけれども否定は出来ません。髪の生え際を見ると右側に発赤丘疹が1つあります。もっと上は?髪をかき分けて見ていくと右側の後頭部から頭頂部にかけて同じような丘疹がポツリポツリありました。水痘にかかったことはあるとのこと。後頭部の帯状疱疹による頭痛と診断しました。
少し古い本ですが、「見逃し症例から学ぶ日常診療のピットフォール(生坂政臣著 医学書院 2003年発行)」の中に「徐々に増悪する頭重感で受診した管理職の中年男性」という症例が載っています。緊張性頭痛と診断しがちですが、実は帯状疱疹による頭痛でしたという症例です。増悪する頭痛なので器質疾患を探すべきで、頭髪に隠れた頭皮の皮疹は丁寧に観察しないと見落としがちと注意してあります。
特徴的な皮疹があれば帯状疱疹と診断できますが、痛みだけの時期だと診断できないかもしれません。少し触れただけで痛みを強く感じるとの記載もありますが経験はありません。皮疹が出ないままの帯状疱疹もあるとのことで、こうなると診断は「水痘・帯状疱疹ウィルス(HHV-3)の血中抗体上昇」で行うことになります。
急な頭痛で増強あれば、まずは髪の中の頭皮をよく見てみましょう。カミに隠れた頭痛の原因が分かるかもしれません。

平成南町クリニック 玉田

現代医療に残る誤解

不安定狭心症(冠攣縮狭心症)かもしれない症状があったけれどもすっかり落ち着いている状態の患者さんから相談を受けた場合、もっとも適切な対応は、症状の詳細な記載とホルター心電計による評価、冠動脈の形態評価や攣縮の有無の評価です。しかし、ホルター心電計装着期間内に症状が出ない場合があり、またすぐにはCTアンギオや冠動脈造影検査を決意されないことも多いので、胸痛時にニトログリセリン舌下錠を使用して狭心症かどうかの区別を試みる事があります。
しかし、ここ数年の研究では、ニトログリセンリン舌下錠による胸痛軽減効果をもって冠動脈疾患を区別することはできない事が示されています。
「医師ならば知っておくべき意外な事実」ロバートB.テイラー著 小泉俊三/吉村 学 監訳 メディカル・サイエンス・インターナショナル社発行(2015年12月)の2章 現代医療に残る誤解に物申す の冒頭に上記のことが書かれています。
Steelらの研究では、冠動脈疾患患者がニトログリセリン舌下投与で胸痛が軽減するのは72%(冠動脈疾患患者でも28%の人は胸痛が軽減しない)であり、逆に、冠動脈疾患でない人がニトログリセリン舌下投与で胸痛が軽減しないのは37%(冠動脈疾患でない人も63%の人は胸痛が軽減する)とのことです。
冠動脈疾患で胸痛が軽減する人の数は、冠動脈疾患でないのに胸痛が軽減する人に比べて1.1倍しかない。とのことです。(1倍なら全く差がない)
つまり、ニトログリセリン舌下錠の胸痛軽減効果の有無で狭心症の診断をしてはいけないという訳です。
同じような時代遅れの「プラスチック(似非)・パール」のいくつかが紹介されています。
診断がつく前に腹痛の軽減に麻薬系鎮痛薬を投与すると診断の決定が困難になる(似非パール)
ペニシリンと全てのセファロスポリンには10%の交差アレルギーリスクがある(似非パール)
気管支喘息治療でステロイドを短期間使用したら漸減中止する(似非パール)
寒冷への曝露は上気道感染症に影響しない(似非パール)magnifier1_doctor
※パールとは真珠のことですが、短いフレーズにまとめられた臨床の知恵を「臨床パール」と言います。

根拠や確率が不明な言い伝えや聞き伝えで病気の診断や治療をしていないかを、反省しつつ診療していく必要を感じています。

平成南町クリニック 玉田

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ケトン体が人類を救う

宗田マタニティクリニック院長 宗田哲男 著『ケトン体が人類を救う』光文社新書(2015年11月20日発行)の、「あらかじめのまとめ」で書かれている、現在の栄養学の間違っている6つの神話を紹介します。

1.カロリー神話
血糖値とカロリーには、何の関係もないにもかかわらず、カロリー制限で糖尿病を治そうとする矛盾。糖質量に注目して管理すれば薬を使わなくても血糖値を管理できる。

2.バランス神話
バランスよくと言って、炭水化物を60%も摂らせ、蛋白質、脂肪はそれぞれ20%。この栄養比には(日本糖尿病)学会も認めるように、なんら根拠がない。金科玉条となってすべてを拘束している。

3.コレステロール神話
必須栄養素を満たすには、肉や卵やチーズはもっとも簡単な食品だが、肉や脂肪は「コレステロールが上がるから食べ過ぎないように」と教えられている。この考えはついに公式に否定された。(厚生労働省「日本人の食事摂取基準 2015年4月改訂」で食事からのコレステロールの摂取抑制目標を撤廃)

4.脂肪悪玉説(肉・動物性食品悪玉説)

5.炭水化物善玉説(野菜・植物性食品善玉説)
肥満は脂肪が原因とほとんどの人がそう信じているが、これこそ間違いで、肥満は糖質過剰摂取で起こる。

6.ケトン体危険説
ケトン体が危険な物質であるというのは、20年前の知識。前世期の遺物。ケトン体は胎児、新生児のエネルギー源であって、健康とアンチエイジングのエネルギー源である。食事の糖質を減らすと血中のケトン体が上昇して、糖尿病専門医は「危険だ」「子どもの知能が低下する」と大騒ぎをする。しかし胎児は高ケトン環境にあり、ケトン体が危険な物質ではなく、胎児は糖質を必要としていない。

宗田医師は専門の産科において「妊娠糖尿病」を低糖質食で管理し、インスリンを使用しないで安全な出産を実践しています。ケトーシス(生理的ケトン体上昇)とインスリン作用が欠落している時の糖尿病ケトアシドーシスとは異なる状態であり、これらを混同する間違いを指摘しています。
上記の6つの神話には入れてありませんが、次の間違い神話も付け加えたいです。

脳はブドウ糖しかエネルギーとして利用できない説
脳細胞は主としてブドウ糖をエネルギー源としますが、通常でも20%はケトン体を使用しています。(ハーバー生化学) 完全脂肪食(エスキモー)数週間後には脳は50~75%のエネルギーを脂質(ケトン体)から得る事ができます。(ガイトン臨床生理学)
新しく判明した事実を理解して、それまでの誤った内容を素直に反省する勇気を持ちたいものです。

平成南町クリニック 玉田

穏やかな糖質制限

北里大学北里研究所病院糖尿病センター長の山田 悟医師(日本糖尿病学会専門医・指導医)編著による「穏やかな糖質制限」ハンドブック(日本医事新報社)が2014年5月に発刊されています。その内容の一部をご紹介します。
緩やかな糖質制限が適しているのは、
肥満・メタボリックシンドローム・ロコモティブシンドローム・糖尿病・認知症
適していないのは、
蛋白制限食が必要な場合・1型糖尿病(全ての患者ではない)・妊婦・小児
内容
○1食20~40gの糖質量にする。間食に糖質10gを許すので、1日の糖質量は70~130gとなる。
○糖質以外の蛋白質・脂質は満腹になるまで食べてよい。
○満腹まで食べても、3大栄養素のエネルギー比率はおおよそ、蛋白質25%・脂質45%・糖質30%になる
○低血糖を防ぐために糖質制限中の糖尿病治療薬に注意する。
私的補足
※日本糖尿病学会の推奨してきたエネルギー比率は炭水化物(糖質とほぼ同義)50~60%、蛋白質1.0~1.2g/体重kg、残りを脂質 ですので、かなりの差があります。2013年には主治医の裁量で50%未満もありうると変更されています。
※※糖質のエネルギー比率をもっと低くして1日糖質量60g以下にする糖質制限食の提唱もあります
※※※妊婦の糖質制限が安全で有効な方法である事を示した報告もあります。(宗田マタニティクリニック院長 宗田哲男著 ケトン体が人類を救う 糖質制限でなぜ健康になるのか 光文社新書)
さて、全仁会グループでの施設提供食の糖質エネルギー比率は全て60%で、「穏やかな糖質制限」で提唱されている1日上限の130gになるものはありません。糖質量が最も少ない糖尿1200kcal食でも、1食米飯100g(糖質37.1g)で副菜と合わせると3食で糖質合計170gになります。1食の米飯を64gにすれば3食合計糖質130gになりますが、総カロリー1019kcalです。総カロリーが少ないので痩せてしまう危険があります。
総カロリーをなるべく減らさないで糖質130gにするには、常食Aの副菜(1042kal 糖質84.1g)と主食の米飯糖質46g(米飯3食124g 208kcal 1食米飯41g)の組み合わせがあり、総カロリー1250kcalです。この組み合わせでの糖質エネルギー比率は41.6%です。当院に通院されていて上記に近い提供食で血糖コントロールが改善している方があります。しかし、北里研究所病院指導の糖質エネルギー比率30%より多いのです。現在の提供食メニューではこれが限界なので、「緩やかな糖質制限」をするにしても個人的な補食が必要になります。
コンビニ店での食品には成分としての糖質量が記載されているものがありますが、弁当や麺類、サンドイッチなどでは記載されていないものが多いです。レストランでの食事メニューのカロリー表示はよく見受けますが、糖質量の表示も是非して欲しいです。また、ヘルシーメニューとして紹介されているレシピにはカロリーは必ず記載してありますが、計算できる筈なのに糖質量は何故か記載されていません。
糖尿病や肥満でなくても、摂食する糖質量を意識しながら真のヘルシー生活を送りたいものです。

平成南町クリニック 玉田

昆布の摂り過ぎによる甲状腺機能低下

90歳代の女性の方で、疲れやすい・元気が出ないと訴えて来られた方がありました。疲れやすい原因は多20151020岐にわたりますが、一般検査では特に変化のない方でしたので、甲状腺機能低下や副腎皮質ホルモン低下を疑いました。甲状腺刺激ホルモン(TSH。脳下垂体から分泌されて甲状腺ホルモン分泌を刺激するホルモン) がかなり上昇していたにもかかわらず甲状腺ホルモン F-T4 は基準値未満で、明らかな甲状腺機能低下でした。副腎皮質ホルモンの低下はありませんでした。
女性の甲状腺機能低下は橋本病(自己免疫疾患のひとつ。日本の全女性の8人に1人18%と多く、潜在性を含めると甲状腺機能低下はそのうち10人に1人で、全女性の80人に1人が甲状腺機能低下。)が原因の事が多いのですが、この方は、橋本病を疑う自己免疫異常ありませんでした。診察では、甲状腺腫大や圧痛なく、亜急性甲状腺炎の経過もみられませんでした。
ヨード(ヨウ素)過剰摂取で甲状腺機能低下がありうる(ウォルフ-チャイコフ効果と言います)ので、食生活を尋ねたところ、かなり以前から、健康のためを考えて毎日、昆布小片1枚を一晩コップ1杯の水に漬けておいて翌朝に飲んでいたとのことでした。
昆布の小片は1枚4g~5gですので、全部溶出すればヨウ素6mgになります。ヨウ素の1日摂取推奨量は0.13mgで、上限は3mgとされています。日本人の平均摂取量は1日0.5mg~3mgで、必要以上または上限近く摂っていることになります。この女性は、上限量の約2倍を上乗せして毎日摂取されていたことになります。また慢性的な腎機能低下がありましたので、ヨウ素の尿中排泄が減少していると考えられ、実際にはヨウ素過剰がより強かったと思われます。
通常は、甲状腺になんらかの異常がある時に過剰なヨウ素摂取で甲状腺機能が低下するとされていますが、もともとの異常が無くてもヨウ素過剰摂取で甲状腺機能低下をきたしたとする報告があります。(2008年報告 昆布15g=ヨウ素35mgの連続55~87日摂取で明らかな甲状腺機能低下 )
原発事故などで放射性ヨウ素に被爆してしまった時に、甲状腺への被爆を減らす為に非放射性のヨウ素製剤を服用する予防法がありますが、普段からヨウ素を摂り過ぎているとヨウ素製剤を服用しても効果が出ないであろう事も報告されています。
食品1食中のヨウ素量(H19年度指定課題研究報告)の概略は、こんぶ茶0.3mg前後、即席みそ汁0.01mg~0.3mg、吸い物0.003mg~0.6mg、即席カップ麺0.05mg~4.4mg、鍋のつゆ0.01mg~3.8mg などです。
1日推奨摂取量0.13mg・上限3mgと比べて、かなり含有量の多い食品があります。
私たちは通常の食生活でヨウ素を既にやや必要以上に摂っていますので、それ以上の摂り過ぎには注意が必要です。

平成南町クリニック 医師  玉田

インフルエンザ濾胞

ブログ9月12日(土)の倉敷市休日夜間急患センターの夜間当番の出務の時に、中年女性でその日の昼前からの発熱の患者さんがおられました。悪寒・咽頭痛・鼻水・全身痛があり、後日にインフルエンザの診断がついた人と3日前に話をしたという経過でした。診察時に咽頭後壁に、「インフルエンザ濾胞」を認めましたので、症状と合わせて、「検査結果が陰性でもインフルエンザとして治療しましょう。」と説明しました。発熱後10時間余りの経過なので、鼻粘膜拭い液検体での迅速検査では陰性かと思いましたが、結果は「A型インフルエンザ陽性」でした。倉敷市の倉敷小児感染症サーベイランスでは9月6日まではインフルエンザ報告はまだありませんが、実際にはもうインフルエンザ発症患者さんはおられます。もっとも、真夏でもインフルエンザは発症し得ますので「まだ」とか「もう」とか言うことは無意味なのですが。
さて、「インフルエンザ濾胞」とは何かご存じでしょうか。咽頭後壁のリンパ濾胞は種々のウィルス感染での出現が知られていたのですが、インフルエンザに特徴的な濾胞の所見については、2004年1月に宮本明彦先生(桜川市 内科宮本医院)が茨城保険医新聞に発表されたのが最初です。インフルエンザ濾胞があれば95%以上の確率でインフルエンザと診断でき、迅速検査が陽性になるよりも早く出現することもあるようです。
この濾胞は「かぜ診療マニュアル 2013年12月刊 日本医事新報社」P134によれば、
①咽頭後壁に丸く半球状の濾胞
②境界明瞭でそれぞれが独立
③米粒様、涙滴様の濾胞も
④赤紫(マゼンタ)色でイクラに似ている
⑤周囲は緊満して光沢があり、半透明
⑥特にインフルエンザ感染初期でみられる
という特徴があります。
この「イクラ状のリンパ濾胞」が無くてもインフルエンザは否定できませんが、可能性はかなり低いのでインフルエンザ以外の疾患による発熱や症状を考える必要が出てきます。所見があってもその気になって観察しないと見えてこないので、「咽頭後壁に何かないか?」と自問自答しながら診察している毎日です。

平成南町クリニック 医師

原発性アルドステロン症

ketuatu高血圧症の5~20%は、原発性アルドステロン症によると言われています。

アルドステロンはホルモンの一種で副腎皮質から分泌されていますが、副腎皮質の病変により過剰に分泌されているのが原発性アルドステロン症です。 アルドステロンが過剰に分泌されると、ナトリウムが体内に貯留して体液増加で高血圧になり、低カリウム血症、代謝性アルカローシスや臓器障害(脳出血・脳梗塞・心筋梗塞・心肥大・腎不全など)を起こします。次のような高血圧症の場合に本症が多いとされます。
① 血圧が160/100mmHg以上 ②治療抵抗性 ③低カリウム血症を伴う ④副腎腫瘍がある ⑤40歳以下で脳卒中を起こしたことがある ⑥両親が本症 ⑦糖尿病を伴う
副腎病変を切除することによって高血圧を治癒させることが出来るので、診断を確立することは重要です。

1週間続く咳で当院を受診された38歳の男性の血圧が171/113でしたので原発性アルドステロン症を疑い、血中のレニン・アルドステロンを測定しました。アルドステロン値が273.5ng/dLで200以上、レニン活性1.0ng/mL/hで1以下、アルドステロン/レニン比が273.5で200以上でした。低カリウム血症はみられませんでしたが、副腎皮質ホルモンのコルチゾール値は正常範囲であり、原発性アルドステロン症の可能性が非常に高いため内分泌専門外来を受診して頂きました。
画像検査では副腎に腫瘍性病変は認められなかったのですが、内分泌の確認検査で原発性アルドステロン症が確定しました。左右の副腎静脈からのカテーテル採血検査を行って、どちらの副腎がアルドステロンを過剰分泌しているかを確認し、その副腎を切除する治療選択肢もありますが、その方は手術療法を希望されずその検査は未施行です。確定診断後、抗アルドステロン作用薬とカルシウム拮抗薬による降圧治療を受けておられます。

高血圧症は原因不明の本態性高血圧症と、原因の明らかな二次性高血圧症に分けられます。できるだけ原因を明らかにしながら高血圧治療をおこなっていきたいと考えています。

平成南町クリニック 医師