平成南町クリニック」カテゴリーアーカイブ

この頃思うこと

話題① 蜂に刺され救急処置を実践
7月4日の早朝に庭の伸びすぎたオーシャンブルーを取り除いている最中に蜂に左中指の背側を刺されてしまいました。強烈な痛みと共に痺れ感覚が広がり、刺された点を中心に発赤・腫脹がみるみる手背まで広がって行きました。2011年7月17日、6月20日の旧ブログに記載していますが、蜂毒による障害を最小限にするため即座に、熱いお湯(幸いコーヒーを淹れるための湯の残りがあった)に中指を中心にして手を漬けては出し(温度計を探す余裕がなかったので、数秒間漬けて我慢出来なくなったら出すのを繰り返した)を数分間続けました。その内にまず痺れ感が取れ、痛みも治まっていきました。しばらくすると腫れや発赤も消褪していきました。他の人へは勧めていたことですが、身を持って体験し有効性を確信しました。

話題② やはり糖質制限は体に良いと考える
2015年3月の日本栄養・食糧学会誌に高齢者認知機能の低下に対する食事の影響の研究結果の紹介文を目にしました。その要旨は、短鎖・中鎖脂肪酸摂取が認知機能得点低下リスクを軽減しうるというものです。しかし、要旨には述べられていないが、研究データでは、8年後にMMSEが27点以下に低下するリスクは、総カロリーや蛋白質摂取量には有意な関係ないが、炭水化物の摂取量が増えると有意にリスクが上昇しています。糖尿病の重症度が増えると認知症リスクが増えるという研究結果もありますから、糖質の摂り過ぎに注意するのは重要です。

話題③ 最近読んだ本
「失われてゆく、我々の内なる細菌」 みすず書房 マーティン・J・ブレイザー著(山本太郎訳)
ピロリ菌を始めとする腸内細菌叢の乱れ(過去に共生していたと考えられる細菌の減少・消失)が、新たな疾患の原因になっている。1型糖尿病、気管支喘息やアトピー性皮膚炎、炎症性腸疾患など。
乱れの原因として、抗生物質曝露がある。家畜への低量投与(家畜の筋・脂肪を増やす)や生後早期からの繰り返す抗生物質治療が考えられる。また、帝王切開による新生児期の細菌暴露の減少が指摘される。
将来は、便中の細菌叢の評価を行い、不足している菌種を増やす治療をする時代が来るかもしれない。
と著者は述べています。
「こんなとき、フィジカル」 金原出版 徳田安春 原作 梅屋敷ミタ 漫画
漫画の医学学習書です。「フィジカル」はフィジカル・イグザミネーションの略で、身体診察を意味します。患者さんの体の表面を見て動きを見て、触って、振動や音を聞いて体の状態を洩らさず捉えることの重要性を説いています。この漫画本は、総合診療医に必要な「観察力」の疑似体験をすることができ、楽しく学べました。

平成南町クリニック 医師

失神について

気を失ったとクリニックを受診される方が時々あります。意識障害の場合は、すぐに病院へ紹介しますが、失神と考えられる時は、ゆっくり状況をお聞きして対策を考えます。
失神とは、突然発症して、短時間(多くは30秒以内、長くても数分以内)に自然に軽快してほぼ完全に元の状態に戻る、一過性の意識消失のことを言います。原因として最も多いのは、「神経調節性(迷走神経反射)失神」で、予後(発症後の生存率)は良好で、失神経験のない人と同じと言われています。2番目に多いのは、心原性(心停止・心室細動やその他の不整脈など)失神で、予後が不良かもしれないので、最も注意すべき失神です。3番目には、起立性低血圧による失神で、予後は上記2者の中間とされています。
診断(鑑別)は、まず「失神でないもの」を除外します。てんかん発作・ナルコレプシー・クモ膜下出血・一過性脳虚血発作などです。これらが考えにくい時は、検査よりも問診が重要です。
①前駆症状(ほてり・発汗・悪心・腹痛など)があったかどうか。しかし、前駆症状はなかったとの返答でも、失神による逆行性健忘で忘れてしまっていることもあります。
②失神の直前の状態(何をしている時に意識がなくなったか)立っていた・座って休んでいた・動いていた・横になって休んでいた など。
③特定の状況があったかどうか(神経調整性失神に多い)
急な強い痛み・医療行為(注射・切開など)・長時間立っていた→迷走神経反射が想定されます。
咳をした途端・排尿排便時などに失神→状況失神が考えられます。
頸動脈を圧迫する状況(髭剃り中・ネクタイを締めたなど)→頸動脈洞失神を考えます。
④どの位の間、意識を失っていたか。本人には判らないことも多いので、目撃者の証言が必要です。
⑤意識がすぐ戻ったか・しばらく(数分~数十分)疲労感・悪心・傾民傾向などが続いたか
⑥その他の情報:過去に同じような状況で失神を起こしたことがあるかどうか、どんな薬を服用しているか、家族歴があるかどうか(同じような失神を起こした人は?・心疾患の人は?・突然死された方は?)、心電図以上を指摘されたことがあるか など。原因不明の失神が最も多いとされますが、当初の問診で診断できなければ迷宮入りとも言われます。
検査を行うとすれば、その順番が大切です。
①心電図:最も予後不良な「心原性失神」をまず除外したいので、原則どんな場合でも行います。
②失神と意識障害の区別が困難な時には、血糖値測定・電解質検査・頭部CT 頭部MRI、などの血液画像検査
③起立障害テスト(姿勢による血圧・脈拍の変化をみます。)
失神の原因評価やその後の対策を考える上で大事なのは、「低血糖でない(血液検査で異常がない)・頭部画像検査で異常がない」ので「心配ない」と判断してしまわないことです。
(「極論で語る循環器内科 第2版 香坂 俊 編著 丸善出版」を参考にしました。)

平成南町クリニック 医師 玉田

“結”や“合力”の精神

5月の連休に、世界文化遺産・白川郷・五箇山の合掌造り集落を訪ねました。合掌造りの茅葺き屋根は、想像していた以上に大きく見ごたえがありましたが、白川郷集落よりも五箇山の方が小規模ながら手つかず感がありました。住居には今も住人の方々が生活されていますが、公開されている住宅もあり内部を見学することができました。切り妻造りの3~4階立てで、2、3階では往時の養蚕作業が再現されていて興味深いものがありました。また蚕の糞から硝酸カリウムを作り火薬の原料にしていた事も初めて知りました。
合掌造りの大きな茅葺き屋根の葺き替えには大変な労働力が必要で、「結(ユイ)」と呼ばれる等量の労働交換によって維持されて来たとのことです。「結」は全国各地に存在し、田植え・稲刈り・養蚕・材木伐採などの集団作業に不可欠のようです。集落での共同作業形態には「合力(コウリャク)」もあり、こちらは等量の労働交換ではなく、冠婚葬祭、災害時などの「お互いさま」の助け合いのようです。image004
私たちの職場に換言するなら、「結」は同じ職種の人同士で仕事を換わって行うことに相当し、「合力」は他職種間でも仕事や作業をすすんで手伝うことになると考えられます。全仁会を一つの集落とするなら、職員全員が「結」や「合力」の精神をもって互いに助け合うことが肝要と思いました。
image002ちなみに、我が家の愛犬を連れて行きましたが、五箇山・白川郷とも住居内でなければ犬を連れて歩いても問題無しでした。高山市内の有料施設でも犬連れOKでしたので、愛犬共々「飛騨高山」の旅を満喫できました。」
平成南町クリニック 医師

※写真は左:合掌造り住宅2階、養蚕作業場と右:五箇山 菅沼集落

Dr. G 徳田安春先生による症例検討会

magnifier1_doctorNHK番組「ドクターG」出演されている徳田安春先生(地域医療機能推進機構 本部顧問)による症例検討会が4月19日 岡山でありました。今回は医学部学生(6年生)も5人参加しての「問題立脚型学習」という形式でした。この学習方法は講演(講義)中心の勉強法ではなく、一般開業医(診療所医師)のモチベーションを上げるのに最適な方法とのことです。

症例の症状・略歴から可能性の高い疾患を想定し、それらを鑑別するために必要な検査を参加者が提案していきます。得られる限りの詳しい薬歴を基本にします。次いで、身体所見(診察結果)が講師から知らされます。提案した検査の結果が示され、最終診断をする という手順の症例検討です。いわば、日常の診察現場で行っている診断方法と同じ手法で症例検討を行う訳です。

今回は2症例でした。1例目は若い時から統合失調症を合併している施設入所の80歳男性例です。受診の6ヶ月前に自宅で転倒し左大腿骨骨折に対する手術を受けています。その後に施設入所となっています。3日前から微熱、1日前から高熱と意識レベルが低下して受診です。嚥下機能低下、筋固縮、振顫など薬剤性パーキンソニズムが考えられる状況でした。発熱と意識レベル低下は嚥下性肺炎ということでしたが、抗精神薬・抗認知症薬・(抗コリン薬の影響での)緩下剤など多数の薬剤を服用していたことが、最大の問題点でした。多数の薬剤が処方されているのは、副作用打消しのための更なる処方が重なった結果であり、これを「処方のカスケード」と呼びます。また、自宅では厳密な服薬ができていなかったにも関わらず、施設入所後は厳密に服薬し始めた為に、在宅時には認めなかった薬剤性パーキンソニズムを来したようです。

この患者さんは、肺炎の治療と共に減薬を行い、嚥下障害なく元気に退院されたとのことでした。

私も薬歴は詳しく訊くよう努めていますが、中にはなぜその薬が始まったか、いつから始まったか覚えておられない方もあります。減薬を考慮した場合、開始された理由がはっきりしていないと心配が残ります。この症例検討を通して、自分自身の処方内容が「処方のカスケード」になっていないか振り返りつつ処方しなければと自省しました。また、この症例検討で、服用している抗精神薬の全体量が過量でないかどうかを「クロルプロマジンン換算値」で評価することを学びました。

2例目は、1ヶ月前からの微熱、1週間前からの高熱と1ヶ月で5kg体重減少、中等度の寒気、寝汗、全身倦怠のある51歳男性です。病歴・家族歴・職歴・生活歴・環境歴・渡航歴・薬剤歴からは高熱をきたす感染症は否定的でした。感染性心内膜炎は、3セットの血液培養2週間で陰性であり否定的でした。身体所見として比較的徐脈(39.2℃で脈拍90)、眼球結膜黄染、肝脾腫があり、一般検査では血沈亢進、CRP軽度上昇、軽度の貧血・白血球減少・血小板減少と黄疸を示していました。追加検査でフェリチン高度上昇があり高熱と汎血球減少から血球貪食症候群が疑われました。症状の経過からは悪性リンパ腫が疑われますが、全身CTではリンパ節腫大なしでした。しかし可溶性IL2の上昇があり、悪性リンパ腫の可能性が否定できず、骨髄生検と皮膚生検を行い、血管内リンパ腫と診断されました。呼吸機能には問題なく肺動脈病変を形成するは至っていなかったと評価されました。

高熱で受診される方は、冬季は特に多くおられますが、①悪寒戦慄を伴う発熱がある ②2週間以上の発熱が続く 場合には重症感染症や感染症以外の発熱を考えて対処すべきとの教訓でした。また、診療所で血液培養を行うことは少ないけれども、①の場合には特別な検査と考えないで積極的に血液培養を行う事が勧められるとのことでした。当院でも考慮したく思います。(採血自体は、一般の採血検査と同じです。)

平成南町クリニック 医師

当院診療時間について

当院の診療時間は午前8時30分から12時までと、午後1時30分から5時までですが、木曜日の午後は往診やピースガーデン倉敷の配置医診療としていますので外来診療はしておりません。また土曜日は、第2・4土曜日を診療日としています。
ブログ当院は有料老人ホーム『ローズガーデン倉敷』の1階にありますが、道路を隔てて一昨年12月にオープンした、サービス付き高齢者向け住宅『グランドガーデン南町』があります。ここに入居されていて訪問診療(定期的な往診)を希望される方が次第に増えてきています。来月4月からは、計22人となり、1カ月延べ44名になります。週4日(月・火・水・金)の午後1時30分から2時30分までに平均3人の方の訪問診療を行っています。この時間帯の間にクリニックでの一般外来を行うことは困難ですので、午後の診察は事実上、2時30分からとなりご迷惑をおかけしています。いずれ近い内に、午後の診療時間の変更申請を行いますが、ご了承下さいますようお願い致します。訪問診療を終えてクリニックに帰りましてから、処方や「在宅療養支援診療 診療情報提供書」の作成をしますので、実際には2時30分には訪問診療が完了しない日々が続いています。
「在宅療養支援診療 診療情報提供書」は2部作成し、連携医療機関「倉敷平成病院」と連携訪問看護ステーション「ヘイセイ訪問看護ステーション」へ送付しています。月2回作成しますので、入院患者さんの「ショートサマリー」に相当します。これを作成することにより、其々の患者さんの過去を振り返り、現在の問題点を再確認し、今後の解決策を考えることになります。
また、情報提供書ではありませんが、ローズガーデン倉敷とグランドガーデン南町のスタッフの皆さんとの情報共有のため、状況や問題点を診療日に双方向にやりとりしています。いずれも作成に時間をとりますが、「グループ診療」は必要不可欠ですので、出来るだけその日の内に完了するよう努力しています。
一般家庭におられる方への訪問診療4人と特別養護老人ホーム「ピースガーデン倉敷」に入所されている29人の方を合わせた55人が、私の「在宅受け持ち患者数」です。

平成南町クリニック 医師 玉田

高尿酸血症と低尿酸血症

 高尿酸血症とは、尿酸値が7.0mg/dLを超える場合を言います。起こりうる症状や疾患は、①尿酸塩の結晶によっておこるものとして、(1)痛風(尿酸 Na 針状結晶による関節炎 70%は足の親指付け根の関節におこります。)、(2)尿路結石(腎臓や尿管に結石)、(3)痛風腎(尿酸そのものや尿酸塩による腎機能障害)、(4)痛風結節(無痛の肉芽腫 関節・耳介・皮下組織)などがあります。②尿酸塩によらずに、血液中の尿酸が多いことによって血管障害がおこり、動脈硬化の原因になりうると言われています。高血圧、虚血性心臓病や脳梗塞のリスクが高くなります。
 高尿酸血症の原因は何でしょうか。①尿酸の排泄低下 これには、腎臓からの排泄低下(肝臓で作られる尿酸700mgのうち7割の500mg)の場合と、腸管からの排泄低下(3割の200mg)があります。腸管からの排泄が低下していることを、直接証明することが現在は不可能なので、この排泄低下の結果おこる高尿酸血症は、次の産生過剰とみなされます。②尿酸の産出過剰 この原因は、一部の遺伝的なプリン代謝酵素異常を除いては判っていません。実際には①のうちの腸管からの排泄低下も含まれています。
 高い尿酸値を下げるにはどのような方法があるでしょうか。①尿酸産生を抑制する。そのためには、(1)尿酸の原料となる食品摂取を減らす(プリン体の多い食材を減らす。動物の内臓・魚の干物や乾物など)、(2)体内での産生を減らす(内臓脂肪を減らす。糖質の摂りすぎを避ける。)(3)薬剤で減らす アロプリノール(腎臓排泄型)とフェブキソスタット(胆汁排泄型)があります。②腎臓からの排泄を薬剤で増加させる。(1)尿細管での尿酸の再吸収を抑制する。プロベネシド、ベンズブロマロン (2)腎臓からの尿酸排泄促進 ブコローム(消炎鎮痛薬) ②排泄阻害を避ける。アルコールを摂り過ぎない、激しい運動を避ける(これらは乳酸を増やすので、乳酸排泄が優先され尿酸排泄が抑制される) ③腸管からの排泄増加 これに関してはまだ治療法不明です。
尿酸塩の結晶による障害を減らすためには、①酸性で結晶化するので、尿のpHを下げないようにします。アルカリ性食品(海藻類 干しシイタケ 大豆 ホウレン草 ゴボウ など)の摂取、アルカリ化剤(クエン酸カリウム・クエン酸ナトリウム配合剤)の服用 ②冷やすと結晶化しやすいので足先などを冷やさない ③関節に強い力がかかり続けると痛風発作が起きやすいので、そのような運動を避ける。などがあります。
 低尿酸血症という病気もあります。尿酸値2.0mg/dL以下を言います。原因は、①尿酸産生低下 これは非常に稀な遺伝的疾患です。尿酸になる前の物質の沈着で関節炎が起きたり尿路結石が出来たりします。②腎臓での尿への尿酸排泄亢進 (1)再吸収障害 A尿細管障害による続発性 B遺伝的な原因による特発性 (2)分泌亢進 (3)一過性の低尿酸血症 頸静脈的高カロリー輸液、糖尿病、悪性腫瘍、SIADH、薬剤など。
低尿酸血症の人の合併症として運動後腎不全症候群があります。尿酸には活性酸素を除去する作用があるので、尿酸が少なすぎると活性酸素の害が出てしまうのです。やや激しい運動(無酸素運動)の数時間後に腎臓の血流低下による尿細管障害による急性腎不全が起こることがあります。自覚症状としては運動後の腰背部痛・嘔気嘔吐です。風邪をひいていて無理をしたり解熱鎮痛薬を服用しながら運動したりした後に起こりやすいと言われています。また、普段から尿中の尿酸が多いので尿路結石を生じ易くなります。
また、尿酸値が低いほどアルツハイマー病などの脳の変性疾患にかかり易いという報告もあります。
 この頃、尿酸値がかなり低い高齢者の方が見受けられるので、気になっています。

平成南町クリニック 医師 J.T