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無疱疹性帯状疱疹

風邪の季節になりました。風邪に罹って頭痛がすることはよくありますが、頭痛だけの場合には帯状疱疹も考える必要があります。2016年2月20日の本ブログにて「カミ隠しの頭痛」で皮疹のない帯状疱疹のことを書きました。帯状疱疹をおさらいします。

水痘に罹ると水痘帯状疱疹ウイルスは全身の後根神経節内に潜伏します。何らかのきっかけでこのウイルスが再活性化して神経細胞周囲のサテライト細胞内で再度増殖することがあります。ウイルスは知覚神経を通って表皮に達し表皮細胞に感染するので赤い丘疹や水疱が形成されます。この皮疹は皮膚の神経分節に一致して(複数の神経分節のこともあります)見られるのが特徴的です。最初は紅斑で次いで実質性丘疹となりその後水疱を形成します。水疱がさらに膿胞や血疱になることもあります。

皮疹が出現する数日前から皮膚の神経分節に一致した神経痛様の痛みが起こることが多いのですが、この時期に帯状疱疹だと診断することは困難です。また皮疹が出現しないまま経過する帯状疱疹(無疱疹性帯状疱疹)もあります。帯状疱疹の治療は合併症を防ぐためにも出来るだけ早く治療を開始した方が良いのですが多くは典型的な皮疹の出現後に治療が開始されます。

皮疹出現前の帯状疱疹あるいは無疱疹性帯状疱疹を診断して治療を開始するにはどうすれば良いのでしょうか。水痘に罹患していないと断言するのは不可能に近いので水痘に罹ったことがあるとして考えます。

1.本当に皮疹がないかどうかを確認する 毛髪に隠れている皮疹 外耳道の発赤・皮疹を確認する

2.帯状疱疹の痛みの特徴を知っておく

皮膚の神経分節(知覚神経枝の分布している範囲)に一致した部位の痛み

神経痛様の痛み チリチリした痛み アロデニア(異痛症)に似た痛みで、風が吹いても痛い 服が触れても痛い 電気が走る 焼けるような痛み(当院の患者さんで髪の毛を触っただけでとても痛いと表現された方がありました)

時には知覚鈍麻もあるので注意

3.痛み以外の帯状疱疹罹患時の合併症の症状や所見を知っておく(※※ 国立感染症研究所 帯状疱疹ワクチン ファクトシート 2017年2月10日)

4.皮疹の出現がない時やまだ出現してない時期に帯状疱疹と確定できる診断方法を知っておく。

眼部:目の擦過液、涙液 PCR、耳介擦過液PCR、唾液PCR

ペア血清IgM抗体 皮疹出現日の4~5日後から上昇し始める、無疱疹帯状疱疹では、痛みや皮膚違和感出現後から6~8日後から抗体上昇する

 

痛みや異常感覚を「帯状疱疹かもしれない」と考えて他の原因が明らかでない時には、抗ウイルス薬を開始してもよいのでしょうか? 早期に開始すると診断不能になるでしょうか?(典型的な皮疹が出なくなる? PCR偽陽性になる? 抗体価が上昇しなくなる? この点については当ブログ記載時点では明らかにできませんでした。)

ドクターサロン57巻10月号(2013年)にて、東京慈恵会医科大学皮膚科講師 松尾光馬先生は、「一般診療所では40%医師は、発疹を待たずに抗ウイルス剤を投与している。」と発言されています。

皮疹出現前の「無疱疹帯状疱疹」を治療する場合も皮疹出現後の帯状疱疹と同じで、抗ヘルペスウイルス薬(ウイルス遺伝子合成を阻害)の内服です。

腎排泄剤 3種類 ①アシクロビル(他2剤に比べ急性期疼痛・帯状疱疹関連疼痛の消失までの期間が長い) ②パラシクロビル ③ファムシクロビル

胆汁排泄剤1種類 アメナメビル(腎機能考慮不要 RFP等代謝経路同一薬剤併用は禁忌・要注意)

 

さて、帯状疱疹に罹らない事が最も重要ですが、その為にはどうすれば良いでしょうか。

(1)水痘に罹らないように小児期に水痘ワクチンを接種しておく。(乾燥弱毒生水痘ワクチン「ビケン」)

2014年10月予防接種法に基づき水痘ワクチンの定期接種が導入されました。その結果、2015年以降小児水痘患者は大幅に減少しています。しかしこのことで、周りの成人は水痘帯状疱疹ウイルスに曝露することが減少しています。結果として既感染者の再活性化(再発としての帯状疱疹)が増加すると推測され、実際に帯状疱疹患者が増加してきています。

(2)追加免疫のため帯状疱疹ワクチンを接種する。

「シングリックス」 不活化ワクチン 0.5mL筋肉注射 2回

(2018年3月23日に日本での製造販売が承認されましたが、製剤供給不足でまだ使用できません。)

「小児用の水痘ワクチン0.7mL皮下注射」を0.5mL皮下注射1回接種する(帯状疱疹予防明記あり)

(3)水痘帯状疱疹ウイルスの再活性化を防ぐ

水痘帯状疱疹ウイルスへの細胞性免疫の低下で再活性化するので、疲労 ストレスを避ける、他疾患で免疫抑制状態(糖尿病悪化・腎不全など)にならないようにする。

加齢による再活性化は防ぎようがありません!

(4)水痘帯状疱疹ウイルスに対する感染対策(※感染対策メモ)を知っておく。

 

帯状疱疹の合併症を防ぐためにも、一刻も早い診断ができるよう努力していきます。

(水疱出現後や合併症出現時の対応は、今回は割愛します。)

平成南町クリニック 玉田


※感染対策メモ

帯状疱疹の水疱中にはウイルスが存在しているので、接触感染を起こしえます。

水痘と同じように空気感染も起こしうるので、水疱部は被覆しておく必要があります。

水痘帯状疱疹ウイルスに免疫のない人へは20%感染起こすと言われています。

免疫異常のない帯状疱疹患者さんでも唾液中にウイルスDNAが検出され、時にウイルスも分離されます。

全身播種型や免疫低下状態の帯状疱疹患者さんへは、空気感染対策が必要です。

 

※※ 帯状疱疹合併症(国立感染症研究所 帯状疱疹ワクチン ファクトシート 2017年2月10日)

皮膚細菌性二次感染症(全ての知覚神経節)

帯状疱疹後神経痛(全ての知覚神経節)

眼合併症(第2、3、5脳神経第1枝多い=三叉神経第1枝:顔神経) 鼻尖部や鼻背部に帯状疱疹時に多い

角膜炎 上胸膜炎 虹彩炎 結膜炎 ブドウ膜炎 急性網膜壊死 視神経炎 緑内障

進行性網膜外層壊死 AIDS患者で認める

無菌性髄膜炎(第5脳神経) 頭痛 髄膜刺激症状

血管炎(脳炎) (第5脳神経) 髄液検査で診断30人中37%は皮疹なし  免疫不全者で多い

脳血管炎 昏迷 痙攣 TIA一過性脳虚血発作 脳梗塞

Bell麻痺(第7脳神経) 片側性顔面神経麻痺

Ramsay Hunt症候群(第7脳神経膝神経節と第8脳神経への拡大) 耳介・外耳道・舌前2/3の帯状疱疹

耳痛 めまい 舌前方のしびれ 顔面神経麻痺(皮疹に先行 皮疹ないのままもある)

聴覚障害(第8脳神経) 難聴

運動神経炎(全ての知覚神経節)筋力低下 横隔神経麻痺 神経陰性膀胱 排便障害 (腸閉塞もあった)

横断性脊髄炎(脊髄神経節) 麻痺 知覚麻痺 括約筋障害

内臓播種性VZV感染症 皮疹に先行して体内臓器感染(再活性化)で激しい腹痛・腰背部痛、肺炎・肝炎

赤身の肉のカルニチンは元気の素

本年9月3日に倉敷中央病院脳神経内科部長 森 仁先生の「てんかんとその合併症~カルニチン欠乏症の診断・治療指針2018を踏まえて」の講演会がありました。
抗てんかん薬であるバルプロ酸の添付文書によれば0.1~5%未満で高アンモニアが生じるとなっています。
ある程度の高アンモニア血症は発症しても仕方がないとされているようですが、講演ではバルプロ酸代謝に伴うカルニチン欠乏が原因であることが多いので、バルプロ酸投与を中止できないときは、血中カルニチン濃度(2018年2月から保険適応)を測定し、濃度と症状に応じてカルニチン投与の治療が推奨されるとのことでした。(バルプロ酸は遊離カルニチンと結合して尿中に排泄されますが、その結果としてカルニチンが欠乏して行き、尿素サイクルが停滞してアンモニアが増えるのです。)
カルニチンはビタミンには分類されませんが「条件的必須栄養」とされています。体内のカルニチンの75%が食べ物からで、25%を主に肝臓や腎臓でアミノ酸を材料として作っています。99.4%が骨格筋に存在し血液中にあるのは0.6%とのことです。
脂肪酸がエネルギー源として利用されるには細胞質にあるミトコンドリアの中に脂肪酸が入らなければなりません。中鎖脂肪酸は直接入っていきますが、大部分の脂質である長鎖脂肪酸はアシルCoAに変化してから活性のあるL-体 カルニチンと結合してアシルカルニチンとなるとミトコンドリア内膜を通過できるようになります。
ブドウ糖が少ない時間帯において、カルニチンが不足していると長鎖脂肪酸が燃焼できずエネルギー不足になります。また脂肪酸β酸化ができないのでブドウ糖新生ができずに低血糖が是正できなくなります。その他にも、細胞内の悪性脂肪(中間代謝物として蓄積した脂肪)を細胞外に排出する機能が低下し、インスリン抵抗性が高まることもあります。
カルニチン欠乏の症状は多彩です。強い倦怠感・筋緊張低下・筋力低下・こむら返り・横紋筋融解や空腹感・頻回嘔吐・体重増加不良・呼吸異常・心機能低下、あるいはけいれん・意識障害・脳症などがみられます。検査値異常としては、低ケトン性低血糖・代謝性アシドーシス・高アンモニア血症・電解質異常・肝機能障害・脂肪肝・治療抵抗性貧血などがあります。
生まれつき欠乏することもありますが多くは後天的原因でカルニチン欠乏が生じます。①貯蔵減少/必要増加:妊娠授乳・敗血症・AIDS ②生合成の減少:肝硬変・慢性腎疾患 ③摂取量低下:肉類や乳製品を摂らない・菜食主義・経管栄養・牛乳アレルゲン除去調整粉乳栄養など ④吸収低下:腸管が少ない(短腸 腸切除 炎症性腸疾患 嚢胞性線維症 ⑤尿細管再吸収減少:腎不全・Fanconi症候群・腎透析・連続腎代替療法 ⑥排泄増加:薬剤(バルプロ酸 フェノバルビタール フェニトイン カルバマゼピン ピボキシル基を持つβラクタム経口抗菌薬 抗癌剤など)に伴う排泄。これらの中で注意すべきはよく使用されるピボキシル基を持つ経口抗生物質(セフカペンピボキシル、セフジトレンピボキシルなど 当院では殆ど処方しません。)です。痩せて筋肉が少なくカルニチン含有食材摂取量の少ない高齢者の方や幼小児の人は、薬剤服用でカルニチン欠乏になっているかもしれません。
カルニチンが多く含まれる食品はマトン、ラム、牛肉の赤身、豚ロースなどです。普段からこれらの食品を充分摂って元気に暮らしましょう。
※カルニチン欠乏症の診断・治療指針 2018 を参考にしました。

平成南町クリニック  玉田

下腿のむくみ

下腿から足背にかけての浮腫みを訴える方は多くおられますが、原因を6つに大別して考えます。急性か慢性か、押えても痕の残らない非圧痕性か痕の残る圧痕性か、圧痕性なら40秒以内に元に戻るか戻らないか。それぞれについて局所性と全身性の原因を考えます。

下腿の慢性の浮腫みで最も多いのは慢性静脈不全です。全人口の30%にみられるようです。特徴は、初期には片側性が多く圧痕性ですが、晩期には弾力を伴い非圧痕性となります。足背浮腫を伴うことは少ないとされます。夕方~夜に悪化し臥位で改善(起床時改善)、長時間立位(座位)で悪化し、歩行や下肢拳上で改善。経過が長いと1日中浮腫が続きます。対策は、下肢拳上や弾性ストッキングによる下肢圧迫です。利尿薬は使用しません。

これ以外で局所性原因の浮腫には静脈閉塞による浮腫があります。下肢深部静脈血栓、下大静脈閉塞(肝硬変や腫瘍・腎嚢胞などによる圧迫)などがあります。深部静脈血栓は放置すると肺塞栓を起こすことがあるので厳密に診断する必要があります。

さらに、リンパ浮腫(非圧痕性)による浮腫もあります。1%の原発性リンパ浮腫と99%を占める二次性リンパ浮腫があります。リンパ管に関わる既往症や疾患の場合が殆どですが、横紋筋融解などの筋腫脹によるリンパ浮腫、最近の蜂窩織炎後や肥満によるリンパ浮腫もあります。炎症性浮腫には蜂窩織炎による局所性の浮腫があります。

一方、全身的な原因による浮腫には、Na過剰によるもの(うっ血性心不全 腎不全 薬剤)、低アルブミン血症によるもの(低栄養 ネフローゼ症候群 肝硬変など)があります。頻度は少ないですが、毛細血管透過性亢進による浮腫も考慮する必要があります。この原因には、血管性浮腫(遺伝性、好酸球性)・血管炎・薬剤性(Ca拮抗薬 ACE阻害薬・インスリンを増やす薬剤)・アナフィラキシー・POEMS症候群・RS3PE症候群などがあります。また、甲状腺機能低下症(橋本病) 甲状腺機能亢進症(バセドウ病)の時の粘液水腫(非圧痕性)もあります。

全身性浮腫で注意すべきものにビタミンB1欠乏による浮腫(圧痕性)があります。細動脈拡張と細静脈収縮による浮腫で、脚気心などの心不全を伴わない場合もあるので要注意です。ビタミンB1欠乏は、栄養不良がなくてもループ系利尿薬による排泄亢進やアルコール・制酸剤・タンニンあるいは十二指腸上部空腸病変などでの吸収障害が原因で起こります。

浮腫のようですが浮腫でない「脂肪浮腫」もあります。当然非圧痕性であり、上半身や足背には無く臀部・大腿・下腿が腫れているように見えるだけです。

浮腫み→利尿薬ではありません。多岐にわたる原因を見極める必要があります。

 

(文光堂 「さらに!一発診断100」 「もっと!一発診断100」 などを参考にしました。)

平成南町クリニック  玉田

夏の疲れ? 潜在的鉄欠乏?

まだ梅雨明けにはなりませんが、蒸し暑い日が続くとだるさが溜まり辛い方もおられるのではないでしょうか。
気候や年齢のせいだと思っていても、だるさの原因が貧血のこともあります。しかし、貧血がなく血清鉄値が正常範囲でもフェリチン値が低くて貧血と同じような症状が出る場合があります。
これを非貧血性鉄欠乏(潜在的鉄欠乏)と言います。月経のある成人女性の36.2%で潜在的鉄欠乏があると言われています。以下の症状が現れます。

倦怠感 脱力 頭痛 いらいら感 運動能力低下 労作時呼吸困難 めまい 狭心症 むずむず脚症候群 失神

身体所見も鉄欠乏性貧血と同様な場合があります。

顔面蒼白 皮膚の乾燥 肌荒れ 青色強膜(白眼が青みがかって見える) 萎縮性舌炎 口唇症(口唇炎・口角炎) スプーン爪 食道ウェブ(食道の上方1/3に粘膜に薄い膜ができて固形物が飲み込みにくくなる) 脱毛 収縮期雑音 頻脈など

このような症状がある時には男性でも貧血や潜在的鉄欠乏がないかを調べておく必要があります。
潜在的鉄欠乏は鉄剤服用によって症状や所見が改善します。
鉄剤が服用しづらい場合は、半錠にする・顆粒薬少量にするなどして1回量を減らすと継続できることが多いです。お茶と同時に鉄剤を飲んでも殆ど影響しません、また吸収促進させるためのビタミンCもまず不要とされています。

鉄不足や潜在的鉄欠乏になる原因として月経以外にも胃潰瘍や胃癌、大腸癌からの消化管出血を忘れてはいけません。

さて以上とは逆に、血清鉄値が低くてもフェリチン値が高い場合もあります。
フェリチンを含有している細胞(多くは細網内皮系細胞)からのフェリチンは輸送蛋白のフェロポルチンで輸送されてトランスフェリンと結合できますが、肝臓で形成される「ヘプシジン-25」がフェロポルチンの発現を阻害するのでフェリチン中の鉄が血清に運ばれなくなり、フェリチンは高値で鉄が低値になります。
急性感染症や慢性炎症の時のIL-6や他の液性因子が肝臓を刺激してヘプシジン-25が増加します。細菌感染時にヘプシジンが増える目的は、細菌増殖に必要な鉄を細菌が利用できなくすることにあります。尿路感染時の鉄欠乏・フェリチン高値が感染症治療後には改善することはしばしば経験します。
フェリチン高値が持続する場合には悪性腫瘍、骨髄疾患、膠原病などを区別する必要があります。
貧血やフェリチン値異常の原因追究は奥が深くなかなか一筋縄ではいかないものですが、重大な原因を見逃さないように注意深く結果を解釈する必要があります。

(文光堂 「さらに!一発診断100」 9:体がだるいんです P16 などを参考にしました。)

平成南町クリニック  玉田

「糖質過剰」症候群

光文社新書の「糖質過剰」症候群(新川新道整形外科病院 副院長 清水泰行医師著)を読みました。
高血糖・インスリン過剰・インスリン様成長因子(IGF―1)過剰・最終糖化産物(AGEs)がキーワードです。
これらが様々な疾患の原因や誘因になっているという大胆な仮説です。インスリンやインスリン様成長因子の過剰は、インスリン受容体やインスリン様成長因子受容体の抵抗性を増やして作用を減弱してしまいます。これらの原因は言うまでもなく過剰な糖質摂取です。おそらく正しいと感じます。
以下のような疾患が挙げられています。
肥満 糖尿病 メタボリックシンドローム 認知症 パーキンソン病 うつ病やその他の精神疾患 心臓・脳の血管疾患 非アルコール性脂肪肝 各種の癌 子宮筋腫・子宮内膜症 月経困難症 不妊症 妊娠糖尿病 前立腺肥大症 白内障・緑内障・加齢黄斑変性・近視 骨粗鬆症 変形性関節症 脊柱管狭窄症 黒色表皮腫 脱毛症 乾癬 ニキビ 片頭痛 難聴 逆流性食道炎 甲状腺機能低下症など。

糖質過剰の中でも果糖の毒性について力説してあります。100%天然果汁は危険な飲物と認識すべきです。

糖質は脳への依存性があり過剰摂取がなかなか是正できません。甘いお菓子の誘惑は誰しも感じているでしょう。危険を知りつつ過剰には気を付けたいものです。病気に罹る危険性を最も少なくするには糖質をなるべく摂らないようにすることになります。(必須アミノ酸や必須脂肪酸はありますが、必須糖質はありません。)糖質制限でケトン体が増えケトーシスになりますが、これとインスリン不足時のケトアシドーシスは別物です。

糖質とは、炭水化物から食物線維を除いたものです。糖質には糖類(単糖類=ブドウ糖・果糖・ガラクトース、二糖類=砂糖・麦芽糖・乳糖)と、三糖類(オリゴ糖など)、多糖類(でんぷんなど)および糖アルコール(キシリトールなど)があります。糖質は、ごく一部を除き過剰に摂取すれば「糖質過剰」を起こしうるものです。

平成南町クリニック  玉田

熊野三山詣で

 4月末に一家4人で熊野古道と熊野三山詣での旅行に行きました。宿の予約は無理でしたので車中泊をしました。我が家の柴犬(ジュテ6歳雄)も一緒なので正確には5人での車中泊です。白浜から中辺路に沿って進み熊野古道館のある瀧尻王子で熊野古道の石段を(ほんの僅か)歩き、川湯温泉の公衆浴場(入浴料250円)で入浴し、熊野本宮大社近くのバス停横の駐車場で一夜を明かしました。(正直ややきつい一泊でした) 朝になって見ると熊野本宮大社旧社地「大斎原」の大鳥居が眼の前で感動しました。歩いて熊野本宮大社を訪れ八咫烏(日本サッカー協会のシンボルになっている)のお守りを求めました。その後、熊野川に沿って下流の熊野速玉大社、熊野那智大社を巡り熊野三山詣でを終えました。(おまけは、太子町での鯨スタミナ丼と橋杭岩、潮岬です)

どの大社も犬連れOKであり家族の一員のジュテと一緒にお参りできたので心が満たされた旅でした。

麻生大学獣医学部動物応用学科の研究によると、飼い主と犬が目を合わせると双方で尿中オキシトシン濃度が上昇するとのことです。オキシトシンは、9個のアミノ酸からなるペプチド(他の下垂体後葉ホルモンのバゾプレッシンとはアミノ酸2個が異なる)で、視床下部の室傍核と視索上核の神経分泌細胞で合成され、下垂体後葉に到達してそこから末梢血管に放出されます。分娩時の子宮収縮や乳腺平滑筋収縮による乳汁分泌促進などの生殖機能への作用がありますが、 オキシトシンの根本的な生理的役割は、脳内に放出されて、個体認識能力、絆形成へのモチベーションを高めるための報酬系の増強、絆を形成して個体安寧生存のための社会的緩衝作用などの、「絆形成の様々な過程に関与するホルモン」です。(麻布大学 獣医学部動物応用学科 茂木一孝 The Japanese Journal of Animal Psychology,63,1,47~63、2013 )

愛犬が居ることで信頼関係の形成に必要なオキシトシンが増える生活ができるのは幸せなことだと「ジュテ」に感謝しています。目を合わせ見つめることは人同士でも信頼関係の第一歩なのだと思います。

 平成南町クリニック  玉田

IGRAの「3つのワナ」

蕾が何時しか満開となり今は葉桜の新緑が目に鮮やかな季節です。
蕾と言えば、梢の芽吹きの形(tree-in-bud appearance)と名付けられた胸部CT画像所見があります。結核症や非結核性抗酸菌症にほぼ特有の所見です。(Im JG らの提唱 1995年) 肺結核と言うと「空洞」のイメージを持たれている方が多いかもしれませんが、空洞陰影だけでは結核と診断するのは困難であり、気管支や細葉の小さな病変を表現するtree-in-bud appearanceがあると結核(あるいは非結核性抗酸菌症)の可能性が高いと言えます。確定診断は、結核菌ないし非結核性抗酸菌の証明です。結核患者さんと診断した医師は直ちに保健所に届け出なければなりません。

保健所は登録のあった結核患者さんが感染源になりうると判断した場合、その患者さんから感染を受けた人がいないかどうかを見つけ出すために「接触者健診」を行います。患者さんと接触した(そばに居た)人全員を対象にするのではなく、感染源の人の病状・接触の程度・接触した人の(感染を受けやすいかどうかの)状況を区分して対象の人が決まります。

接触者健診では結核に感染しているかどうかを「インターフェロンγ遊離試験(IGRA:アイグラと発音)で判定します。以前はツベルクリン反応を行っていましたが、現在は原則としてIGRAのみ行います。結核菌が持つESAT-6とCFP10という2種類の蛋白抗原に対して、その人の血液中のT-リンパ球がどの程度のインターフェロンγを作り出すかを測定して結核感染の免疫的な記憶があるかどうかを評価します。(「QuantiFERON TBゴールドプラス」と「T-SPOT」という2種類の検査法があります。)

陽性でも過去の感染か最近の感染かの区別はできない、結核感染既往のある人が全て陽性になる訳ではない(結核感染があっても陰性の場合がある)、また結核感染の無い人でも陽性になることがあるなどの制約があります。「その呼吸器診療、本当に必要ですか?あるのかないのかエビデンス(倉原 優 著)」の第14章によれば、
☑高齢者におけるIGRAの解釈には注意が必要である。アテにならない場合もある。
☑IGRAの「3つのワナ」を知っておく。と総括してあります。
3つのワナとは、高齢者・低栄養・免疫不全のワナ、陽性的中率のワナ、測定誤差のワナです。

陽性者に対しては結核の発病がないかどうかを検査(画像検査と喀痰検査)して、発病があれば活動性結核として治療を開始します。発病していなければ「潜在性結核感染症」としての治療(旧来の化学予防)を開始しますが、結核感染の機会の多い時代を過ごして来た高齢者の方では過去の感染との区別が困難ですので一律に治療対象にはなりません。また、陰性であっても全く放置してよい訳ではありません。状況に応じて経過観察が必要です。

当院は接触者健診の委託医療機関には指定されていませんが、「潜在性結核感染症」としての治療は行っています。

平成南町クリニック 玉田

睡眠薬の見直し

3月12日に倉敷中央病院看護研修センターで、同院の精神科の土田先生による「不安障害の診断と治療」、同じく精神科の小高先生による「不眠症について」の研修講演がありました。
当院を受診されて不眠を訴えられる方は多くおられ、睡眠薬を処方することが多いです。睡眠薬への依存は30年以上前から指摘されていますが、最近特に注意が喚起されています。小高先生の講演内容を中心に睡眠薬の功罪についてまとめてみます。

睡眠薬の開発
1950年代には、バルビツール酸系薬 非バルビツール酸系薬が使用されました。1960年代にはベンゾジアゼピン系薬が、1980年代には非ベンゾジアゼピン系薬が使われ始めバルビツール酸系薬のような危険性がない安全な睡眠剤として今も多く使われています。これらは何れも GABA 受容体作動薬です。(GABA=ガンマアミノ酪酸 という神経伝達物質の働きを促し、脳の活動を抑えて眠りを誘います。)
その後、GABA 作動薬以外の睡眠薬が開発され、2010年代にメラトニン受容体作動薬が、2014年にオレキシン受容体拮抗薬が使用できるようになりました。

ベンゾジアゼピン系薬物の依存性
ベンゾジアゼピン系薬 や非ベンゾジアゼピン系薬 はいずれもGABA―A受容体複合体にあるベンゾジアゼピン結合部位に結合して薬理作用を発揮するので、これらを合わせて「ベンゾジアゼピン系薬物」と呼びます。
長期(おおよそ6ヶ月以上)に使用していると依存性が生じ、中止できなくなる事が多いとされます。長期使用により以下のような問題が生じます。転倒しやすくなる、呼吸抑制を生じる、せん妄を生じる、認知機能を低下させる(かもしれない)、ストレスなどの問題に対して薬以外の対処が困難になる。また、中止した時に離脱症状が現れます。強い不眠、不安、恐怖、感覚過敏、目の眩しさ、耳鳴、頭痛、筋けいれん などが生じます。
一般的には薬剤依存は過度の使用を続けて生じるのですが、ベンゾジアゼピン系薬物は日々の使用では安全・効果的な常用量でも長期間使用で依存を来すので厄介です。効果が強く、作用時間が短いものほど依存性が高いとされます。

ベンゾジアゼピン系薬物からの脱却
そもそも不眠症とは、夜間不眠の訴えがあり かつ 睡眠不足に関連して日中の精神・身体機能の影響がある状態であり、下記は「不眠症」の症状ではないとされます。  睡眠の質の低下、朝の爽快感がない、熟眠障害。これらを改善するために薬剤を使用する必要はないとされます。
日中の精神・身体機能の影響がある場合には何らかの介入が必要ですが、なるべくベンゾジアゼピン系薬物ではなく、依存性が強くはないとされるメラトニン受容体作動薬やオレキシン受容体拮抗薬の使用が勧められています。これら以外で眠りを誘う薬としては、漢方薬の抑肝散や鎮静作用のある抗うつ薬が選択できます。
既にベンゾジアゼピン系薬物に依存を生じている場合には、少量ずつ減らして行く、隔日投与などにする、他の睡眠剤を上乗せしてから減薬していく、不眠の概念を正しく理解して薬に頼らない不眠対策を考える、などの方法があります。
実際には依存から脱却するのは困難ですが、長期使用による危険性を考え脱却していく努力が必要です。考え方を変えるのに遅きはありません。言ってきた事と違うことを言うことを恐れてはいけないと思います。

平成南町クリニック  玉田

「はしか」のおさらい

2月10日に家族3人で京都観光をしました 京都には大学卒業後2年間までの8年間住んでいたのですが、鹿苑寺金閣、二条城へは行ったことがなく今回初めて訪れました。金閣の屋根に雪がうっすら積もって風情がありましたが、やはり慈照寺銀閣の落ち着きの方が好みです。銀閣にも行き、50年前の学生時代に行っていた大銀食堂(当時とは改築されていましたが)で昼食を摂りました。50年前も働いていたと言われる方がおられ懐かしく感じました。(当時は作り置きのおかずがガラスケースに入れてありましたが、今はサンプルのみ置いてありました。)
帰りの新幹線は早めに午後4時27分京都発に乗り帰ってきましたが、後日のニュースで同日午後8時過ぎの下りの新幹線に麻疹に罹った方が乗っていたと報じていました。
今年は麻疹の患者数が2009年を上回るペースで増加しており2月6日 国立感染研究所データでは、近畿圏を中心に計148人(昨年同時期0人、2009年同時期76人)の感染者数です。岡山県ではまだ0人ですがいつ発症者があらわれるか予測困難です。「はしか」はヒトだけが罹る空気感染するウイルス性疾患です。全身状態が非常に悪い免疫患者にはビバビリンという抗ウイルス薬を使用して有効だったとする報告があるのですが、認可されておらず一般的には対症療法のみです。
マスコミでは「はしか」を思わせる症状の方は予め医療機関に電話してから受診するように注意を促していますが、どのような時にそうすれば良いでしょうか。はしかの経過は以下のようになります。
麻疹ウイルスに曝露されてから10~12日後に風邪症状が始まります。
その後口蓋にKoplick斑と呼ばれる、紅斑の中心に白色や灰色の砂粒様斑点のある粘膜疹が出現します。
風邪様症状出現から4日後に再発熱と共に、顔面(前額部、耳介後部・頚部)から始まる、圧迫で消える盛り上がりのない小さい鮮紅色の皮疹が次第に体全体に拡大して行きます。
その後3~4日後に熱が下がり皮疹が次第に消退して行きます。(茶褐色の色素沈着が起こることもあります)
「はしか」かもしれないと考えるのは、次の(1)、(2)、(3)のいずれかの時となります。
(1)麻疹に罹ったと分かっている人と同席、同室になってから10~12日後に風邪様症状が出現した時
(2)風邪様症状出現後、Koplick斑が出現した時
(3) (1)や(2)の後に、顔を中心に発赤疹が出てきた時
他の人へうつしてしまうのは最初の風邪様症状が出る1日前からとされていますので、(1)、(2)、(3)のいずれの時も他の人へ感染させうる状況です。
言い換えると、「はしか」かもしれないと思われる時には空気感染を阻止できる区域のある医療機関を受診するか、その区域のない医療機関の場合は車で行き診察室に入らずに車中に留まっていただく必要があります。そうでなければ、その医療機関内で感染拡大を起こしてしまいます。(当院に空気感染対策区域はありません)
受診された方の「はしか」の診断方法は下記のとおりです。
臨床的診断 上記の(2)、(3) で診断  (1)の時点では他の疾患かもしれません
確定診断(血液検査) 麻疹IgG抗体の上昇 臨床的診断時と皮疹出現後2~4週間後のIgGの差を確認
麻疹IgM抗体の確認(皮疹出現後3~30日後に上昇してくる)
確実な治療方法のない「はしか」を診断する意義はどこにあるのでしょうか?
はしかが除外できれば、その疾患の治療を行う、はしかと診断してその後の感染拡大を防ぐ、はしかの合併症を早めに確認する と考えられます。
麻疹ワクチン接種を受けていても十分な感染防御抗体価がない場合もあるので注意が必要です。

平成南町クリニック  玉田

屠蘇を楽しむ

新しい年になりました。新年を迎えるにあたって皆様は屠蘇を楽しまれたでしょうか。我が家では毎年少しだけ屠蘇を味わっています。屠蘇は屠蘇散を浸した酒や味醂であり、1100年以上前に中国の蘇明が和唐使として日本に来た時に伝えたとのことです。江戸時代には医者が薬代の返礼に屠蘇散を配る事があったようです。

屠蘇散は数種類の生薬を混ぜたもので、以下の組み合わせが多いです。

防風 セリ科ボウフウの根   発汗・解熱・抗炎症作用

山椒 サンショウの実      健胃作用・抗菌作用

肉桂 肉桂の樹皮(シナモン) 健胃作用 発汗・解熱作用 鎮痙作用

桔梗 キキョウの根       咳・痰を鎮める、鎮痛作用

白朮 キク科オケラ または オオバオケラの根 利尿・健胃・鎮静作用

陳皮 みかんの皮       吐き気止め

健康のための妙薬と言えますが、摂る量は少ないので薬効を期待するのは難しそうです※。

さて生薬と言えばこれらの組み合わせが漢方薬であり、健康に益することが多いのですが時に副作用を起こすことがあります。医薬品であれば薬害被害の救済対象になります。一方、医薬品でないサプリメントや健康食品はそのような救済制度はありません。これらを摂り続けることによる肝障害などを認めた患者さんを時に経験します。

一人は糖尿病の方です。肝障害を認めることはありませんでしたが、ある日の検査で初めて肝障害があり尋ねてみると、血糖値が下がるとの触れ込みで○酵○茶の摂取を開始されていました。中止して間をおいて再検査すると改善していました。知らずに続けていると肝障害が悪化していたと思われます。

もう一人は、スポーツジムで血圧上昇を指摘され来院された初診の方です。初診時の検査で軽度の肝障害がありました。血圧はその後、薬剤なしで安定しましたが、2ヶ月後の再検査で肝障害が悪化していました。尋ねるとサプリメントを2種類開始されていたようです。肝炎ウイルスは陰性であり肝臓専門医を受診して頂きましたが、画像的にも問題なくサプリメントが肝障害の原因だろうということでした。

肝障害以外にも、日本での医薬品漢方薬での低カリウム血症、間質性肺炎・肺線維症や中国製のアリストロキア酸を含む伝統的製剤(関木通・細辛・防已・木香などウマノスズクサ科の植物を原料とする)による腎障害(急性尿細管壊死)などがあります。

自覚症状のない時点でも異常所見が出ていることがあるので、医薬品でない漢方薬・伝統的製剤・サプリメント・健康食品を継続的に摂る場合には注意が必要です。私たち医療者側も患者さんの薬剤歴のみでなくサプリメントなどの摂取歴を忘れずに確認しなければなりません。

平成南町クリニック  玉田

※屠蘇は少量を1~2日しか飲みませんでしょうから、薬害はまず起こらないと思います。