特発性正常圧水頭症(iNPH)について

いつも倉敷ニューロモデュレーションセンターのブログをお読みくださり大変ありがとうございます。センター長の牟礼です。
今回はこれまで当ブログではご紹介したことのない特発性正常圧水頭症(iNPH)(とっぱつせい せいじょうあつ すいとうしょう)という疾患について紹介させて頂きます。
脳(と脊髄)は硬膜という白い膜に包まれており、脳脊髄液という透明な液体で満たされています(図1)。
水頭症というのは脳脊髄液の循環が滞り、脳の一部に脳脊髄液が過剰に貯まって脳が圧迫されることにより引き起こされる病気です。水頭症には生まれつきのものである先天性水頭症や、クモ膜下出血などの病気に続発する二次性水頭症などいくつかのタイプがありますが、iNPHは明らかな原因なく発症し、60歳以上で増加します。
 
iNPHのサインは「歩行障害」、「認知症」、「尿失禁」の3徴候です。
歩行障害が最も多く出現し、“小刻み”、“すり足”、“がに股”となり歩行が不安定となりますが、パーキンソン症状による歩行障害とも似ていますので鑑別が必要です。


次いで認知症(ボーッとする、意欲が低下する、物忘れ)尿失禁の順に症状が出現します。
 
CTやMRIを撮影して特徴的な画像所見(脳萎縮が少ないのに脳脊髄液の貯留が多い等:図2)が認められればiNPHである可能性が高く、更に腰椎(せぼね)の間から脳脊髄液を30ml程度ぬいて(タップテストと呼びます)症状の改善が得られれば診断はほぼ確定です。
タップテストでの症状改善は一時的ですが、シャント手術と呼ばれる治療によって持続的な症状改善を得ることができます。
 
シャント手術とは脳室という脳脊髄液の貯留室と腹腔をチューブでつなぎ余分な脳脊髄液を腹腔へ流す「脳室腹腔シャント」と、腰椎の中の脳脊髄液を腹腔へと流す「腰部くも膜下腔腹腔シャント」が主なものです。
 
どちらも全身麻酔下に1時間半程度で行える手術です。
 
手術により歩行障害、認知障害、尿失禁の順に症状が改善し、歩行障害は約80%、認知障害は約70%、尿失禁は約50%改善すると報告されています。
 
程度や発症してからの期間によって差がありますが、早期に治療されれば劇的な症状改善が得られることも多く“改善可能な認知症”と言えます。
 
日本でiNPHが疑われる患者様は37万人以上と推定されますが、病院受診率は10%未満と言われ多くの患者様が見過ごされている可能性があります。
 
倉敷ニューロモデュレーションセンターではiNPHの治療も行っておりますのでお心当たりのある患者様はご相談ください。
 
※参考URL

倉敷ニューロモデュレーションセンター長
牟礼 英生
平成11年 徳島大学医学部卒業
専門分野 / 脳神経外科
学会・資格等
・医学博士
・日本脳神経外科学会専門医
・日本定位・機能神経外科学会技術認定医
・日本脊髄外科学会認定医
・日本脳卒中学会専門医



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