神経障害性疼痛(慢性疼痛)とはどのような病気?
神経障害性疼痛とは、感覚神経が障害されて生じる痛みです。神経が過敏になり、痛みの信号が出過ぎてしまう状態です。神経障害性疼痛は、通常の痛み止めの効果が期待できず、難治性の痛みになりやすい傾向があります。
慢性疼痛とは、特定の原因がなく、痛みが慢性的に続くものをいいます。けがや病気などが完治した後も3か月以上痛みが続く場合や、がん、関節炎、糖尿病、線維筋痛症などの慢性疾患や治らないけがが原因の痛みが続く場合などが慢性疼痛に該当します。
神経障害性疼痛(慢性疼痛)の主な症状
神経障害性疼痛(慢性疼痛)は原因が無いのに鈍い痛みが広がっている症状を言います。自律神経徴候(睡眠障害、食欲減退、味覚減退、体重減少など)をしばしば引き起こします。持続的な痛みがあることで、抑うつや不安を引き起こし、日常の活動を妨げる可能性があります。痛みのことばかり意識して不活発になり、引きこもりに陥ったり、健康状態ばかり気にしたりするようになります。心理的および社会的障害が重度であるために、社会的な機能をほぼ失ってしまうこともあります。
痛みの中には「どこが痛いのかわからない」ものもあります。検査でもどこにも異常が見当たらないことがほとんどです。このような痛みに何十年もの間付き合っている人の場合は感覚が麻痺してしまい、痛みが分からなくなってしまっている人もいます。仮に痛みがあったとしても「この痛みは痛いと言えるレベルかわからない」と捉えている人もいます。
神経障害性疼痛(慢性疼痛)は持続性のある痛みですが、しばしば短く激しい痛みが再燃することがあります。定期的に痛みをコントロールする神経障害性疼痛(慢性疼痛)の治療中に突然出現するために、突出痛と呼ばれます。突出痛には個人差があり、多くの場合は予測不能です。
神経障害性疼痛(慢性疼痛)の病因
神経障害性疼痛(慢性疼痛)の原因は様々です。急性の痛みが発生した時に適切な治療を行わずに、そのまま放置してしまった場合には、痛みが別の痛みを誘発させて、慢性化することがあります。痛みが長引くと血行が悪くなり血管は収縮します。血管が収縮するとさらに血行が悪くなって、痛みを起こす物質が発生し、慢性的な疼痛になります。
慢性疾患(がん、関節炎、糖尿病、線維筋痛症など)が引き起こすことがあるほか、けがや不安などの心理的要因が原因になることもあります。心理的要因により悪化する神経障害性疼痛(慢性疼痛)は、慢性疼痛症候群と呼ばれることもあります。
神経障害性疼痛(慢性疼痛)の診断
中枢神経または末梢神経に関してはMRI・CTなどの画像検査や、神経伝導検査などの神経生理学的検査を行います。三叉神経痛では血管などによる三叉神経の圧迫がないかMRIなどで確認します。
幻肢痛では頸部神経による痛みや狭心症など他の疾患の関連痛ではないか、また、心理的要因が疑われる場合にも、まず身体的な検査を行い、うつ病などの精神障害が痛みの原因であった場合、または痛みが原因でこれらの精神障害にかかった場合は、正式な精神医学的評価が行われます。
神経障害性疼痛(慢性疼痛)の治療法
薬物療法
痛み止めは、ロキソニン、アスピリン、セレコックス、ボルタレン等の非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDS)が一般的とされています。これらは、体内で炎症などを引きおこす体内物質プロスタグランジンの生成を抑え、炎症や痛みなどを抑え、熱を下げる薬となります。
一方、慢性疼痛ガイドライン2018には、神経障害性疼痛に対する第一選から第三選択薬が示されています。
第一選択薬 | プレガバリン・ガバペンチン/三環系抗うつ薬(TCA)/セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬 |
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第二選択薬 | ワクシニアウィルス接種家兎炎症皮膚抽出液/オピオイド鎮痛薬[軽度]:トラマドール |
第三選択薬 | オピオイド鎮痛薬 |
第一選択薬の一つ「プレガバリン」は2010年に販売開始、帯状疱疹後神経痛、末梢神経障害痛に保険適応が認められたものですが、副作用に浮動性めまいなどがあり医師の指示に従っての服用が大切です。
リハビリテーション
運動療法は、安静や生活指導等と比較すると神経障害性疼痛(慢性疼痛)と機能障害に対して有効であり、慢性腰痛、変形性膝関節症、慢性頸部痛については強く推奨されています。当院では、専門医の指示に従い、理学療法士・作業療法士が対応いたします。体を動かすこと自体が痛みに良い影響をもたらします。徐々に体を動かしていき、日常生活のレベルを上げることで充実した生活に戻ることが可能となります。
また、心理療法としての認知行動療法(Cognitive behavioral therapy::CBT )の有用性も推奨されています。物事のとらえ方(認知)や行動に働きかけて、ストレスを軽減する心理療法の一種ですが、当院では、公認心理士が担当いたします。
神経ブロック
神経や神経周辺に局所麻酔薬を注射して、痛みの伝わる経路をブロックしています。一時的な麻酔効果だけでなく、興奮して過敏になった神経を落ち着かせ患部の状態を改善させます。「トリガーポイント注射」や「硬膜外ブロック」、「仙骨ブロック」など、痛みの部位と適応を見極めて使い分けています。
SCS治療(脊髄刺激療法)
SCS治療(脊髄刺激療法)で脊髄を電気刺激することで、慢性化している神経性の痛みや虚血性の痛みを和らげることが可能です。
完全に痛みを消失させることは困難ですが、痛みが緩和することによって、患者さんの日常生活の動作や仕事などがしやすくなり、満足のいく生活を過ごしていただくことが可能となります。
SCSを行うためには小手術が必要となります。治療用のリード(刺激電極)を脊椎硬膜外腔という、脊椎と脊髄を包んでいる膜(硬膜)の間に留置し、体内に埋没型の刺激発生装置を植込みます。リードが直接脊髄に当たることはないため、安全で低侵襲な手術です。手術は通常、局所麻酔下で2~3時間程で終了します。SCSで用いるリードや刺激装置は体内に完全に植込まれるため、体の外に露出することはありません。