特発性正常圧水頭症(iNPH)とはどのような病気?
水頭症とは、何らかの原因で脳脊髄液が多くなっている病態のことです。水頭症と聞くと、子供の病気と思っている方も多いと思われますが、特発性正常圧水頭症は高齢者になってから発症する水頭症で、過剰に増えた脳脊髄液の影響で、脳の前頭葉が広範囲にわたって障害されることにより、様々な症状が現れます。
なぜ、脳脊髄液が増加するのかはまだ不明ですが、身体中をめぐる髄液の組織への吸収率が老化と共に減少するためではないかという仮説があります。いずれにしても、増加した髄液が脳を圧迫することにより、歩行障害(小刻みの歩行となり転びやすくなる)、認知機能の低下、失禁(漏らしてしまう)等の症状が現れると言われています。この歩行障害・認知機能の低下・失禁は、正常な加齢現象との区別が難しく、特発性正常圧水頭症の発見を遅らせる一つの原因となっています。
歳だからしょうがない、ということで病院にも行かず、放置されていることも多い病気です。
しかしながら、MRIの画像診断により、アルツハイマー型認知症やパーキンソン病との鑑別も可能となっています。
治る認知症とも呼ばれる特発性正常圧水頭症(iNPH)。
正しく診断・治療することで症状の改善が期待できます。
特発性正常圧水頭症の診療ガイドライン第3版が2020年に出されたことにより、飛躍的に診断・診療の標準化がなされましたが、まだまだこの病気は知られていません。
70~80歳代で多く発症し、有病率は0.2~3.7%,罹患率は年間およそ10万人当たり120人程度が罹患されているといわれています。パーキンソン病の有病率が10万人当たり約100~150人といわれていることから同等程度の患者さんがいると考えられています。
特発性正常圧水頭症は,高齢者においては比較的頻度の多い疾患であることが明らかとなっていますが、受診率は10万人あたり年間2~10人、65~70歳以上に限れば年間30~60人と報告されており、発症者の数%~10%未満しか受診していないと推定されます。
特発性正常圧水頭症(iNPH)の症状
歩行障害、認知障害、排尿障害の三つが特徴的な症状(三徴)といわれ、歩行障害が90%出現し、認知障害は80%、尿失禁は60%にみられ、三徴が揃うことはほぼ半数といわれています。
最近歩きにくくなった
やる気が出ない、物忘れ
トイレに間に合わない
引用元:高齢者の水頭症
歩行障害の症状
徴の中では、歩行障害が比較的特徴的で、小刻みで足を開いたような歩行となり、方向転換も困難となってきます。パーキンソン病でも小刻みな歩行になりますが、足を開いたような歩行にはならないので、このことが鑑別点となってきます。このような歩行になると転倒しやすくなります。
- 小刻み歩行(小股でよちよち歩く)
- 開脚歩行(少し足が開き気味、がに股で歩く)
- すり足歩行(足が上がらない状態)
- 不安定で転倒することがある(特にUターン)
- 第一歩が出ない(歩き出せない)
- 突進現象(うまく止まることができない)
などがみられますが、これはパーキンソン病の歩行障害とよく似ており、鑑別が必要となってきます。
認知障害の症状
特発性正常圧水頭症での認知障害の症状は、記名力低下・知的作業速度低下・反応性、自発性の低下などで、一日中ぼーっとしていたり、趣味をしなくなった、テレビや新聞に興味を示さなくなった、表情が乏しくなったなどが挙げられます。攻撃的になったり、妄想が見えるようになるというよう例はないと考えてよいでしょう。
排尿障害の症状
特発性正常圧水頭症での排尿障害の症状は、ほとんどは尿失禁です。切迫性尿失禁ともいわれ、歩行障害があってトイレに間に合わないという場合は一度検査を受けて見られることをお勧めします。
特発性正常圧水頭症(iNPH)症状チェックリスト
症状のタイプ | 状態 |
---|---|
歩行障害 |
|
認知症 |
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尿失禁 |
|
その他 |
|
特発性正常圧水頭症(iNPH)の病因
なぜ、脳脊髄液が増加するのかはまだ不明ですが、身体中をめぐる髄液の組織への吸収率が老化と共に減少するためではないかという仮説があります。
いずれにしても、増加した髄液が脳を圧迫することにより、歩行障害(小刻みの歩行となり転びやすくなる)、認知機能の低下、失禁(漏らしてしまう)等の症状が現れると言われています。この歩行障害・認知機能の低下・失禁は、正常な加齢現象との区別が難しく、特発性正常圧水頭症の発見を遅らせる一つの原因となっています。
歳だからしょうがない、ということで病院にも行かず、放置されていることも多い病気です。
しかしながら、MRIの画像診断により、アルツハイマー型認知症やパーキンソン病との鑑別も可能となっています。
特発性正常圧水頭症(iNPH)の診断
問診
症状の診断は、担当する専門医によって行われます。患者さんの歩く様子を注意深く観察したり、ご家族からお話をうかがうなどして、iNPHの3つの徴候である「歩行障害」「認知症」「尿失禁」の症状があるか調べます。
また、歩行テストを行い、歩行障害の程度を測定したり、認知症の有無や程度を調べる検査を行ったり、本人、または同伴者に問診をして尿失禁の程度を確認します。
MRI画像診断
脳神経外科では、MRIでの画像診断で、脳室の拡大、シルビウス裂の拡大、高位円蓋部の髄液腔の狭小化が見られれば、ほぼ特発性正常圧水頭症が推測されます。
髄液タップテスト
問診とMRIで正常圧水頭症が疑われる場合には、髄液排除試験「髄液タップテスト」を実施します。
効果があれば「特発性正常圧水頭症」との確定診断がなされ、治療を行うこととなります。
髄液タップテストは、当院では3泊4日の入院での実施となります。
腰椎穿刺により約30㎖の脳脊髄液を排除し、その結果症状が一時的に改善するかどうか見る検査です。歩行障害・認知障害・排尿障害のそれぞれについてスケールを利用し、リハビリセラピストが綿密に、テスト前後を比較し、改善度を計測します。
特発性正常圧水頭症(iNPH)の治療法
正常圧水頭症と診断された場合は、主に髄液シャント術が行われます。髄液シャント術は、脳室にたまった過剰な脳脊髄液を、直径2mmほどの細い管を腹腔に導いて吸収させる手術です。主に2つの方法が行われています。
L-Pシャント術
脊髄のくも膜下腔という部分から、管を腹腔に通す方法です。
現在主流になりつつある方法で、髄液シャント術の過半数を占めており、当院でも主にこの術式をとります。L-Pシャント術の場合、当院では約10日間の入院となります。
V-Pシャント術
隋骸骨に小さな穴をあけ、管を脳室から腹腔に通す方法です。
脊柱管狭窄(さく)症などがあり、脊柱が変形している場合には、L-Pシャント術は適さないため、V-Pシャント術が行われます。
どちらの手術でも症状が軽い早期の段階で行うことができれば、日常生活に困らない程度まで、症状を改善することが期待できます。
シャント術後の経過ですが。
脳脊髄液を抜いて、圧迫から脳を解放してやることにより症状は大きく改善します。歩行障害は70~80%、認知障害は60~70%が良くなるといわれています。
しかし、発症から時間が経つと脳が障害を受けてしまいます。早く病気に気付いて受診し、治療につなげることが大切です。
手術が終わった後は、外来でフォローしながら経過を観察します。髄液を調整するバルブは体内に入れての生活となりますが、日常生活は支障なく送っていただけます。