ITB療法[バクロフェン髄注療法]とは

ITB療法は痙縮 (けいしゅく)をやわらげるお薬(バクロフェン)の入ったポンプをおなかに埋め込み、カテーテルを通じて脊髄周辺(髄腔)にお薬を直接投与することで筋緊張を緩和するものです。内服薬にもバクロフェンはありますが、脊髄に直接効果をさせるため投与量が少なくてすむために眠気などの副作用が出にくいという良い面があります。
ITB療法の利点は、薬の投与速度によって効き方を調節できる点や、体の広い範囲に効果が得られる点などがあります。
ただし、バクロフェン髄注療法は、カテーテルとポンプをおなかに埋め込むための手術が必要になります。
おなかにプログラマをあてて埋め込んだポンプを操作し、患者さんの個々の状態に合わせてお薬の投与量などを調整します。広範囲に痙縮がある場合で、上肢よりも下肢の筋緊張を取るのに有効です。

治療のご希望がある場合、手術を行う前に、腰から細い針を刺して薬を脊髄周囲に投与します。薬の投与によって、痙縮の改善が得られる場合はポンプの留置術を予定します。
手術は全身麻酔で行います。腰から針を刺し、脊髄周囲にカテーテルという管を留置します。お腹の皮膚を 8cm程度切開し、皮膚の下にポンプを埋め込みます。腰にあるカテーテルを皮膚の下を通して、お腹のポンプに接続します。
手術のための入院は2週間程度です。手術後は痙縮の程度をみながら薬の投与量を調節します。薬の投与量によりますが、2~3ヶ月ごとに薬の補充のため外来に通院して頂きます。また、ポンプの電池は5~7年程度でなくなるため、その前にポンプの交換が必要になります。

脳卒中治療ガイドライン2021では、痙縮の軽減もしくは日常生活動作の改善を目的として、バクロフェン髄注療法を行うことは妥当である(グレードB)
定位・機能神経外科治療ガイドライン第3版では、脊髄性・脳性麻痺性・頭部外傷性および脳卒中後の重症四肢痙縮に対しては、バクロフェン髄注が強く勧められている(グレードA)

治療の特徴
  • 広範囲の痙縮に対応します。
  • スクリーニング(お試し)で効果を試すことができます。
  • いつでも中断・中止することができます。(その場合は、治療前の状態に戻ります)

ITB療法(バクロフェン髄注療法)で使用する機器

ポンプ

ポンプの大きさは、厚さ約19.6ミリ、直径約74ミリ、重さ(空のとき)約146gで、お薬を入れるタンク(20㎖まで)を内蔵しています。

手術を行い、腹部に埋め込まれます。
お薬は、ポンプから自動的に少量ずつでる仕組みになっています。

・電池の寿命は約5~7年です(患者さんのお薬の用量によって異なります)。
・電池が消耗したら、再度手術を行い、新しいポンプに交換します。

ITB療法(バクロフェン髄注療法)が適応となる疾患

ITB療法(バクロフェン髄注療法)は、下記のような病気・症状による痛み神経の支配領域に限局した痛みに対し効果的な療法です。

痙縮

脳卒中、脳性麻痺、脊髄小脳変性症、脊髄損傷、脳損傷、低酸素脳症、急性脳症、多発性硬化症、脊髄血管障害、脊椎症 など


痙縮について


ITB療法(バクロフェン髄注療法)の流れ

目標設定

痙縮によって困っていること、日常生活の中で改善したいことなど、医師と一緒に治療目標を決めていきます。

1回目入院:1~2日スクリーニング(効果があるかを確認)
1回目入院:1~2日

ポンプなどをお腹に埋め込む前に、バクロフェン髄注療法を行うことで、効果があるかどうかを確認します。

  1. 腰から少量のお薬を脊髄の近くのスペースに1回注射して、効果を確認します。
  2. 注射後およそ24時間の間、症状が改善されるかどうかを確認します。

効果があった場合

症状の改善具合、患者さん・ご家族の治療に対する満足度などを総合的に考えて、最終的な治療をご希望される場合は、ポンプをおなかに入れる手術をして、効果が持続するようにします。

※効果がなかった場合
お薬の量を調整して、再度治療効果を確認します。再度治療後も効果がなかった場合、他の治療法を検討します。

効果がなかった場合

お薬の量を調整して、再度治療効果を確認します。
再度治療後も効果がなかった場合、他の治療法を検討します。

2回目入院:1~2週間ポンプ・カテーテルの植え込み手術
2回目入院:1~2週間
  1. 治療を継続される場合には、ポンプをおなかにいれる手術を行います。
    ポンプからカテーテルを皮膚の下を通して、背中の脊髄の近くまで届けます。
  2. ポンプの留置後、効果を確認します。
    手術の直後は、効果が強く出すぎたり、軽くなりすぎたりすることがありますが、お薬の量を調節することで適切な効果があらわれるようになります。
    手術の傷口は、おなかにポンプ埋込みのため約9センチ、背中にカテーテル挿入のため5センチの2か所です。手術回数は1回です。

ポンプをおなかに入れた後の流れ
  • 手術後約2カ月間は、ポンプやカテーテルの位置がずれないよう、植込み部位に負担がかからないように安静を心がけ、激しい動作はしないでください。
  • 3か月以内に1回の頻度でお薬を補充します(外来受診)
    おなかの上からポンプに注射して、お薬を補充します。
  • 約5~7年に1回、ポンプを交換します。(入院手術)
    約5~7年でポンプを動かす電池が切れます。
    電池が切れそうな時期になりましたら、手術により新しいポンプと交換します。

※バクロフェン髄注療法は、いつでも中断・中止することができます。中断・中止した場合は、治療前の状態に戻ります。

ITB療法(バクロフェン髄注療法)の効果

治療効果およびメリット

神痙縮を和らげることで、日常生活の活動の場を広げたり、日常生活の質を高めることを目的としています。
バクロフェン髄注療法は、2005年に厚生労働省の承認を受けた治療法です。

副作用とデメリット

この治療法は、痙縮そのものを治したり患者さんの病気そのものを治すものではありません。髄液漏、カテーテルトラブル(脱落、断裂、ねじれ、閉塞など)、感染などのトラブルが報告されます。
ポンプシステムの何らかの異常により、お薬の注入量が減ってしまい、離脱症状が現れる場合があります。

ITB療法(バクロフェン髄注療法)よくある質問

Q1. ポンプはどの様な形ですか?
A1. ポンプの大きさは、厚さ約19.6ミリ、直径約74ミリ、重さ(空のとき)約146gで、お薬を入れるタンク(20㎖まで)を内蔵しています。
手術を行い、腹部に埋め込まれます。
お薬は、ポンプから自動的に少量ずつでる仕組みになっています。
・電池の寿命は約5~7年です(患者さんのお薬の用量によって異なります)。
・電池が消耗したら、再度手術を行い、新しいポンプに交換します。

Q2. 旅行は出来ますか?
A2. 空港などの金属探知機にポンプが反応することがあります。この場合は「患者手帳」「緊急連絡カード」を提示して、体内にポンプが埋め込まれていることを伝えてください。飛行機に乗ることは問題ありません。

Q3. ポンプへのお薬の補充はどうやるのですか?
A3. おなかの上(皮膚)からポンプの注入口に細い注射針を刺し、お薬を補充します(外来診察室のベッドで横になっていただき、おなかに注射をするような感じです)。痛みはありません。

Q4. ITBで病気が治りますか?
A4. もともとの病気は治りません。症状を緩和する治療法となります。また、ITB療法を中止すると、治療前の状態に戻ります。

Q5. アラームが鳴った時はどうするべきですか?
A5. ポンプからアラーム音(ピーポーピーポー、またはピーという小さな音が鳴ります)が聞こえた場合は、直ちに病院に連絡し、担当医師の指示に従って受診してください。
アラーム音が鳴るのは、ポンプ内のお薬がもうすぐなくなるときやポンプ内の電池がもうすぐ切れるとき等です。

Q6. 手術時間はどの位ですか?
A6. 埋込手術は、全身麻酔で1時間30分くらいです。

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