ミレーナ50mgが、日本で発売になり、このミレーナを当院でも導入しました。
海外では、過多月経やその他の疾患に対して臨床応用され、たくさんの論文が報告されていますが、日本では現在保険適応がなく、避妊器具として自由診療の範囲で使用されています。
まだ日本では発売されたばかりで、情報が少なく、また、値段も非常に高価なためなかなか受け入れられないのが現状のようです。
避妊器具としてはもちろんのこと、その内膜退縮作用により、過多月経を解消し、月経困難症を軽減できるのはとても魅力的ですが、やはり副作用や使用感など、主観的な評価の情報が少ないのが現状です。臨床上の応用に関しても、どこまで効果があるのか、他の治療法と比較してどうか、今後検討されていくと思われます。
このサイトは病院の宣伝ではありません。
ただ、診療上、充分説明する時間がとれなかったり、新しい治療法で医学的に最も最適な治療法と思っても、充分な理解が得られないことがあり、お家でゆっくり振り返っていただくためにこのページを作りました。
また、ミレーナは挿入すると5年間のお付き合いになります。不正出血や腹痛などのトラブルがおこることもあります。
心配な症状があったら、必ず主治医の先生に相談しましょう。
(この文章がかかれたのは、平成19年ミレーナが導入された時点のものです。平成26年9月よりミレーナが一部、保険適応となっています)
ミレーナはレボノルゲストレル除放型IUSの商品名です。
子宮の中に挿入する避妊リングで、フィンランドで開発され、既に世界では20万人の女性に使用されていす。
日本には平成19年に導入され、現在は「避妊リング」としての自由診療が行われています。
ミレーナの特徴は、従来の避妊リングと異なり薬剤添加により、避妊効果を発揮します。
つまり、ピルの一成分である、プロゲストン「レボノルゲストレル」が子宮の内膜に直接触れることで作用し、子宮内膜を薄くして受精卵が着床するのを妨ぐのです。
また、この子宮内膜を薄くするという効果が、着目され、子宮内膜増殖症や子宮内膜症、子宮腺筋症といった疾患への臨床応用が期待されています。
生理痛も軽くなります。
低用量ピルやホルモン剤と異なり、血液中にホルモン剤(レボノルゲストレル)の濃度はほとんど上がりません。添加されたホルモンは子宮の周りだけに作用します。
ミレーナは子宮にしか作用しません。生理は軽くなりますが、ご自分の周期で発来します。また、出血する膜自体を退縮させてしまうので、10人に2人の人は生理の出血自体が一年以内になくなるといわれています。
ただし、出血が無いだけで、生理を起こすような性周期は体の中で保たれています。(排卵もします。)
着床に必要な、子宮内膜が退縮するため、着床がおこらず妊娠しません。避妊率は99.9%で、ピルのように飲み忘れによる失敗がありません。
ミレーナには更年期を起こすような作用はありません。生理がなくなっても、ホルモンのバランスは変わらないので、更年期はそれぞれご自分のペースでやってきます。(ミレーナによる薬剤性の更年期はありません)
子宮内部のかたちのゆがみや変形があると脱出してしまうことがあります。
挿入後に痛みが続くことがまれにあります。必ず医師に相談してください。
挿入後、1ヵ月〜3ヶ月は断続的に出血が続きます。その量もひとそれぞれです。これは薬剤の効果なので心配はいりません。
※ミレーナによる体重増加作用はありません。
ミレーナは産婦人科の外来で、子宮の中に挿入してもらいます。
従来の避妊リングと同じく、麻酔などは基本的には行いません。
外来で、大体5分くらいで挿入が終わります。子宮の中に挿入するときは、多少痛みが伴います。
痛みは、子宮の入り口を把持するときに引っ張られる感じがあり、その後子宮にミレーナを入れるときに痛みます。
痛みは人によってさまざまですが、痛みを感じる時間は数秒です。
ミレーナが正位に挿入されているかどうかの確認方法は、経膣超音波法でも確認できますが、個人的には骨盤部単純レントゲン法をお勧めいたします。
ミレーナ本体には硫酸バリウムが付加されており、エックス線に映ります。
ミレーナのT字のアームが子宮の中できれいに開いていれば、正位に挿入できていると確認できます。
子宮腺筋症はもともと子宮内膜が子宮筋層に迷入しておこる病態です。
生理のたびに子宮内膜が剥がれて出血するのと同じように、子宮筋層の中に迷入した病変から出血がおこります。
したがって、子宮の筋肉内で出血が繰り返され子宮筋層が固く厚く肥大して、収縮不全を起こし激しい月経困難症と過多月経になります。
子宮内膜はエストロゲンによって増殖し、プロゲステロンによって分泌期となり増殖を停止します。
したがって、人工プロゲステロン(プロゲストン)であるレボノルゲストレルが、ミレーナから子宮に常に放出されている状態は、子宮内膜細胞やそれに類似した細胞(子宮腺筋症細胞・子宮内膜症細胞)の増殖をおさえてしまうのです。
これが子宮腺筋症にミレーナが応用される理由です。海外でも子宮腺筋症へのミレーナの応用は試みられており、ミレーナの効果はGn-RH agonist(リュープリンやゾラテックス・スプレキュア・ナサニール)とほぼ同等の効果があるという結果が報告されています。また、単純子宮摘出術(卵巣温存)と比較しても、治療後の卵巣機能評価がミレーナのほうが優れているという結果が得られています。
確かに、子宮腺筋症の方にミレーナを挿入すると、早い人で挿入したその月から、月経困難症状は著しく改善され、およそ3ヶ月目までは不正出血があるもののほとんどの方は、貧血を呈さず、症状は軽減されます。座薬の痛み止めでも効かないと痛みを訴えていた方が、2〜3ヶ月目からは痛み止めの必要さえなくなってしまいました。
画像検査(MRI)上も3ヶ月目には子宮は小さくなり、子宮腺筋症のマーカーであるCA125の値も低下します。
ただし、この効果が恒久的に5年間持続するのかについては、疑問の余地があります。
あくまでホルモン療法のため、プロゲステロンレセプターやVEGFなどのレセプターの down regurationも報告されており、一部の方は出血が長引き、6ヶ月以上出血が継続するときは、他の治療に切り替えるまたは他の治療法を追加したほうがよいでしょう。
軽度の子宮腺筋症で、月経困難症の方です。
CA125は195U/mで、過多月経を認めました。
挿入後1ヵ月より、鎮痛剤なしでも、普通に生活できるようになり、月経量の減少して6ヶ月後はCA125 23U/mlになりました。
現在まで、ヘモグロビンが10g/dlをきるような貧血も認めません。
子宮筋腫は子宮の良性の腫瘍です。
場所によって治療が異なりますが、
1.6cmを超えて、周囲の臓器に圧迫症状がある
2.筋腫によって、生理の出血が増え、貧血がある
3.腰痛・腹痛などの症状がある
場合に治療の適応になります。
子宮筋腫は場所によって3種類に区別されます。
子宮の外側に突き出している筋腫です。一番症状が出にくい筋腫です。
子宮の筋肉の中に位置する筋腫です。
子宮は筋肉でできた臓器で、生理の出血を止めるのに、ギュウと収縮します。
筋肉の中に筋腫があるとうまく収縮できず、生理の量が増えて、貧血をおこすことがあります。
子宮の内腔に突き出している筋腫です。
最も過多月経を伴いやすく、大出血や筋腫分娩(子宮の入り口から筋腫がでてきてしまうこと)の原因となります。
子宮筋腫の治療法は、手術療法・偽閉経療法(ゾラテックスなど)・UAE低用量ピルなどさまざまで、なんとか閉経まで症状をコントロールします。
閉経後は縮小することが多く、反対に縮小せずにどんどん大きくなる筋腫は手術適応となります。
ミレーナに関しては、子宮筋腫による過多月経(貧血)の予防として応用されることがあります。低用量ピルに比べ、出血量が少ないことがそのメリットです。
ただし、ミレーナに添加されているレボノルゲストレルに反応して大きくなってしまう筋腫もありますので、使用の際は充分な注意と通院が必要です。
また粘膜下筋腫に関しては、なるべく他の治療を選択したほうが良いようです。(脱出しやすいため)
過多月経とは、生理の出血(月経血)の量が多く、貧血を発症する病態を指します。
重複子宮、双頸双角子宮、中隔子宮など子宮の内腔面積が広い方や、特に原因がないのに月経量が多く、貧血が進んでしまう方は、ミレーナによって、過多月経の症状を軽減することが可能です。
日本とアメリカ以外のヨーロッパ諸国では、ミレーナは避妊だけではなく、過多月経も適応となっています。
当院では、過多月経の症状が強い、中隔子宮の方の子宮右内腔にミレーナを挿入したところ、3ヶ月後には両方の子宮内腔の内膜が退縮し、ミレーナ挿入後は貧血の症状はみられなくなりました。
Santiago Apostol Hospital, Vitoria, Alava.
University of Auckland, Department of Obstetrics and Gynaecology, Private Bag 92019, Auckland, New Zealand.
a.lethaby@auckland.ac.nz
子宮内膜増殖症は、子宮内膜が過剰に増殖した病態で、以下の4項目に分類されます。
単純型子宮内膜増殖症 構造・細胞異型がない
単純型子宮内膜異型増殖症 構造異型はなく、細胞異型がある
複雑型子宮内膜増殖症 細胞異型はなく、構造異型がある
複雑型子宮内膜異型増殖症 構造・細胞異型がある
子宮内膜増殖症は、不正出血や過多月経といった症状がみられます。 子宮体癌の前がん病変となることがあり、複雑型子宮内膜異型増殖症の約30%が 子宮体癌へ移行するといわれています。
細胞異型がなければ、自然消退することが多いのですが、 細胞異型がなくても、過多月経と不正出血を繰り返し、貧血のすすむ方に対しては、 ミレーナによる治療が奏功します。
当院でもヘモグロビン値が7前後の方には全面掻爬後にミレーナを挿入しています。全面掻爬単独の治療に比べると再発率が低く、挿入後の貧血は予防することができました。
Academic Department of Obstetrics and Gynaecology, Birmingham Women's Hospital, Birmingham B15 2TG, UK.
From the Department of Obstetrics and Gynecology, Hospital Universitari del Mar, Autonomous University of Barcelona, Barcelona, Spain.
乳癌の手術後、エストロゲンレセプターが陽性の乳癌の場合は、タモキシフェン療法を行うことがあります。
タモキシフェンはノルバテックス等が該当します。閉経前の方に処方されることが多く、このタモキシフェンは、将来子宮体癌の発生率を上昇させるため、タモキシフェンを使用されている方は半年に一回(一年に一回のこともあります)、子宮体癌の検診を行うことがすすめられています。
ミレーナによる効果は「子宮内膜を退縮させ、月経血量を減らす」ことです。
現在、海外の文献では、「乳癌の術後のタモキシフェン治療中にミレーナを挿入することで、子宮内膜へのタモキシフェンを抑制することが出来た」また、「乳癌の術後のタモキシフェン治療中に、ミレーナを挿入することで、有意に子宮内膜のポリープの発生率を低下することができた」と報告され、子宮体癌の予防措置として期待されています。
Department of Obstetrics and Gynaecology, University of Leicester, UK.
fjegl@le.ac.uk
Department of Obstetrics and Gynaecology, The Chinese University of Hong Kong, Prince of Wales Hospital, Shatin, New Territories, Hong Kong.
symphorosa@cuhk.edu.hk
Department of Obstetrics and Gynaecology, University of Leicester, UK.
fjegl@le.ac.uk
ミレーナはプロゲストンによる偽妊娠療法になります。
ミレーナによる効果は「子宮内膜を退縮させ、月経血量を減らす」ことです。
その他の療法としては
薬剤性更年期をつくり、生理をなくす治療法です。
生理を止めてしまうので、過多月経による貧血は改善され、また子宮筋腫は一時的に縮小することが知られています。
また、子宮腺筋症・子宮内膜症も生理がくるたびに悪化する疾患なので、生理をとめることで軽快します。
ただし、6ヶ月以上の継続治療ができないのと、使用すると2〜3ヶ月で更年期症状(ほてり・動悸・不眠・うつ症状・骨塩量の低下など)が出現することがデメリットです。
個人的には閉経が近い方が逃げ込み療法として使用するのに適していると考えています。
低用量ピルにもプロゲストンが配合されています。
第1世代のピルには、ノルエチステロン、第2世代のピルにはレボノルゲストレル、第3世代のピルにはドセゲストレルが配合されています。
したがって、第2世代のトリキュラー28やアンジュ28はミレーナと同じ成分が配合されているのです。
効果も同様、偽妊娠療法になりますので、「子宮内膜を退縮させ、月経血量を減らす」ことができます。
ミレーナとの違いは血液中にホルモンの濃度がある程度、上昇するので、喫煙習慣や糖尿病など血栓傾向を伴いやすい背景のある方は、使用を控えたほうがよいという点です。また、毎日だいたい決まった時間に服用しなくてはならないので、飲み忘れやドロップアウトなどによってせっかくの薬効が充分得られないことが問題点です。
平成20年、子宮内膜症の治療薬として新しく認可された、「ディナゲスト1mg」は第4世代のプロゲストンといわれるジエノゲストです。
男性ホルモン作用が全くない第4世代のプロゲストンの錠剤で、子宮腺筋症や子宮内膜症の治療薬として、一日2回、約1年間服用するという治療法です。
治療を開始すると、約8週間くらいを ピークに不正出血してくるという副作用があります。
これも偽妊娠療法に該当します。
非常に期待される治療法ですが、やや高価なお薬です。(月1万円程度)
現在、婦人科領域の腹腔鏡下手術は目覚しく発達し、負担の少ない手術として頻繁に行われるようになってきました。
根治(完全に治す)という意味では、手術療法がもっともそれに該当すると思われます。
子宮筋腫核出術や子宮腺筋腫切除術など子宮を温存する術式から、子宮全摘出術まで、症状やライフスタイルにあわせて術式が決定されます。将来出産の希望のある方は、子宮筋腫や子宮腺筋症の再発のリスクは残りますが、子宮温存療法が選択され、とくにもう出産の希望のない方は、もっとも確実な子宮全摘出術が適応されます。
子宮動脈を詰めて、筋腫や子宮腺筋腫に流れ込む血液を遮断し、腫瘍や病変を退縮させる治療法です。