その皮膚移植は本当に必須ですか?

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本年3月11日のブログ「新しい創傷治療」 (なついキズとやけどのクリニック院長 夏井 睦 主宰)に、手背の全層皮膚欠損の症例が紹介されています。
患者は2歳1ヶ月女児。小児科での○年1月5日に左手背からの点滴が漏れて壊死を生じ、1月6日に同院の形成外科を紹介された。石鹸でよく洗いゲーベンクリーム塗布となった。その後、手背全層皮膚欠損となり1月24日に皮膚移植をしないと治らないと説明を受けた。
女児は○年1月25日に「なついキズとやけどのクリニック」を受診。白色壊死を伴う手背全層皮膚欠損あり健常皮膚との境界部に浮腫状肥厚を認めていた。夏井医師は、湿潤療法※を開始し、受診から35日後に上皮化が終了し、平坦な健常皮膚が再生した。予想を上回る速さで治癒しています。

当院でも、5年前に他院小児科での点滴漏れによる右手背の全層皮膚欠損の9ヶ月女児の経験があります。同院形成外科で、点滴漏れの壊死に対しフィブラストスプレーとアズノール軟膏の塗布、ガーゼ交換の治療が行われていました。しかし壊死は進行し手背の半分弱の大きさの全層皮膚欠損となり皮膚移植が必要と言われています。点滴漏れから11日後の1月5日に当院を受診されました。湿潤療法※で経過をみましたが壊死組織は自己融解し肉芽の増生が得られ、その後欠損創の周辺から健常皮膚が再生し始め、当院初診68日後にはほぼ上皮化しました。(腸疾患のため静脈栄養のみで経過していた生後7ヶ月の女児です。)
前記の「なついキズとやけどのクリニック」での足底全層皮膚欠損の患者さんの経過紹介もあります。

62歳女性で他院にて悪性黒色腫疑いとなり、左足底の踵部分の皮膚・皮下脂肪拡大切除を行うも、悪性所見なしだった方です。全層欠損皮膚部へ、石鹸洗浄とゲンタシン軟膏塗布、ガーゼ被覆を行い、左踵への荷重を禁止されていました。改善しないため15日後に皮膚移植(右足土踏まず全層皮膚→左踵欠損部位へ全層植皮、右大腿部分層皮膚→右土踏まずの皮膚切除部へ植皮)を受けるよう説明されています。
その4日後に「なついキズとやけどのクリニック」を受診されています。左踵部の5.5cm×4.5cmの全層皮膚欠損を認めていました。湿潤療法※が開始されています。同部への荷重は禁止せず痛みがなければ歩行を許可しています。欠損創の周辺から健常皮膚が延びてきて、70日後にはごく一部を残してほぼ上皮化しています。荷重に耐え普通に歩行して職場復帰されています。
夏井医師は、皮膚移植を行っていたら成功しても移植された皮膚は「土踏まず部の皮膚のまま」なのでグニャグニャして荷重に耐えられず知覚もなく、荷重すると皮膚潰瘍になる運命を辿ったであろうと述べています。
(以下は夏井医師の解説です) 湿潤療法で再生すると皮膚支帯も再生するので荷重に耐えられる。
足底や手掌の皮膚には、皮膚支帯という手掌・足底の真皮層から脂肪組織を貫いて深部に垂直方向へ走る多数の線維索があり荷重に耐えられるようになっている。この皮膚支帯が発達するには機械的受容器(パチニ小体やルフィニ小体)からの圧情報が必要である。全層皮膚欠損部にはパチニ小体やルフィニ小体がなく、移植皮膚には(機能する)パチニ小体やルフィニ小体がないので、生着した移植皮膚には皮膚支帯が形成されず、荷重に耐えらず日常生活に支障をきたす。
指尖部も同様です。同上のブログには、全層皮膚欠損部の指尖へ移植された鼠径部皮膚は生着してもブヨブヨで知覚もなく指先としての機能がなく日常生活に支障をきたしていた男性症例の紹介もあります。その症例では植皮された皮膚を切除して再度皮膚欠損創とし、その創を湿潤療法で皮膚再生させて知覚のある正常に近い指先皮膚を得ています。
皮膚全層欠損創は、3度熱傷、外傷・手術切除後、壊死などの原因で生じます。時間はかかりますが、湿潤療法を行うと健常な皮膚の再生が得られることが殆どです。もし「皮膚移植が必要」という説明を受けても、そのまま鵜呑みにしないようにしましょう。

平成南町クリニック  玉田